クラフトビール入門講座
ビールの副原料とその特徴について

ビールの副原料とその特徴について

ビールの主原料といえば、「麦芽」です。

麦芽の種類とビールの味わいについて―麦芽についての基礎知識―

日本の酒税法では、「ビール」における「麦芽」の使用比率や、「ビール」に使うことができる「副原料」が規定されていましたが、最近まで、大きな変更はありませんでした。 その中では「副原料」といえば、「麦、米、とうもろこし、こうりゃん、ばれいしよ、でんぷん、糖類」などとされていて、「麦芽」が「主原料」であるのに対して、アルコール発酵させてアルコールと炭酸ガスを生成させる糖のもとになるでんぷん」(分解させると糖になるもの)を補うという意味での「副原料」が主なものでした。

そんなわけで、平成29年(2017年)の酒税法改正までは、ビールに使うことが認められた原料の中で香味付けに大きな変化を与えることができるのは「ホップ」だけだったのですが、この時の改正で、麦芽の使用比率がそれまでの全原料中の2/3以上から、半分以上に変更されるとともに、香味づけ、特徴づけなどに使える原料が新たに政令で定められました。  HOPPIN' GARAGEの歴代商品の中でも、さまざまな副原料が使われてきました。 今回は、そんな「副原料」についての解説を、歴代商品での使われ方を交えながら紹介していきます。

ビールに使うことのできる副原料

先に述べた通り、平成29年(2017年)の酒税法改正までは、ビール原料の中で香味に大きな変化を与えることができるのは「ホップ」だけといってよかったのですが、この時の改正で、香味づけ、特徴づけなどに使える原料が新たに定められ、いろいろと増えました。 その定義を、まずは法律(酒税法施行令、施行規則)の言葉から引用してみましょう。 (法律なので、言葉がカタイのはご了承ください(笑)

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麦、米、とうもろこし、こうりやん、ばれいしよ、でん粉、糖類又は財務省令で定める苦味料若しくは着色料(酒税法施行令第六条一)

こちらがこの改正の前から認められてきたものです。後の方の苦味料や着色料以外は、主食として食べることもできる穀物類やイモであることがわかります。穀物はお酒を醸すアルコール発酵だけじゃなくて、もちろん、人間にとっても重要な食料でもあります。

でんぷんをおぎなう副原料

日本で長く飲まれてきた各社のラガースタイルのビールの缶を見てみると原材料名として「麦芽、ホップ、米、コーン、スターチ」などと書かれていることが多いと思います。「コーン」は「とうもろこし」、「スターチ」は「でんぷん」です。

この「コーン」は「とうもろこし」を粉に挽いたいわゆる「コーングリッツ」の形で使うことが多いと思います。

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コーングリッツ

よく目にする例では、イングリッシュマフィンの表面にまぶされている黄色い粉がそれです。

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イングリッシュマフィン

コーンミール」とも呼ばれ、特にイタリアではこれをお粥にした料理に「ポレンタ」があり、原料の「コーンミール」そのものも「ポレンタ」と呼ぶようです。

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ポレンタ

「スターチ」は原料の穀物から「でんぷん」を精製した白い粉です。原料の穀物はなんでもいいのですが、「とうもろこし」から作れば「コーンスターチ」です。

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コーンスターチ

身近なものでは片栗粉などがあります。片栗粉は名前の元になったカタクリは大規模に栽培されていないので、現在は「じゃがいも」を使うことが多いようです。「じゃがいも」は原料にも書かれている「ばれいしょ」ですね。

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ばれいしょでんぷん

こういった原料は粉の形態で扱いやすい(麦芽のように仕込前に粉砕しなくてもそのまま使える)ことと、成分がほぼでんぷんで、厚味 のもとになる成分が少ないことから、全麦芽ビールでは長所ともいえる「濃醇さ」を和らげて、それよりもぐいぐい飲めるようなタイ プのビールにしたい時に活用されます。


有名なマンガで「ビールに副原料をつかうなんて……」という言説がありましたが、いろいろな ビールを造り分けたいブルワーの視点からすると、「それはちょっと極論なんじゃないかな」と思うことはあります。


さて、それではここまで名前の出てこなかった「こうりやん」は何でしょう? 別名は「もろこし」、漢字では「高粱」と書きますが、 今なら「ソルガム」という名前の方が知られているかもしれません。

アフリカ原産ですが、中国でも栽培されてきた雑穀です。お菓子の原料に使う、なんてこともあるようです。

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栽培されているソルガム

写真では殻が赤いですが、ホワイトソルガムというのもあります。最近ではクラフトビールなどでも使われています。因みに、アフリカ の方では、古くからビールには大麦の麦芽じゃなくてソルガムモルト(発芽させたソルガム)を使うという国もあるようです。

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ホワイトソルガム

香味をおぎなう副原料

ここでちょっと法律の言葉に戻ってみましょう。酒税法改正で使えるようになった原料は以下のように記載されています。

  • 果実(果実を乾燥させ、若しくは煮つめたもの又は濃縮させた果汁を含む。)又はコリアンダーその他の財務省令で定める香味料 (酒税法施行令第六条二)

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  • 令第六条第一項第二号に規定する財務省令で定める香味料は、コリアンダー又はその種のほか、ビールに香り又は味を付けるため使用する次の各号に掲げる物品とする。 (酒税法施行規則第四条2)

  • 一.こしょう、シナモン、クローブ、さんしょうその他の香辛料又はその原料

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  • 二.カモミール、セージ、バジル、レモングラスその他のハーブ

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  • 三.かんしょ、かぼちゃその他の野菜

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  • 四.そば又はごま

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  • 五.蜂蜜その他の含糖物質、食塩又はみそ

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  • 六.花又は茶、コーヒー、ココア若しくはこれらの調製品

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  • 七.かき、こんぶ、わかめ又はかつお節

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どうでしょう。すごくいろいろなものがありますし、かなり具体的ですね。

「コリアンダー又はその種」とありますが、コリアンダーの葉≒パクチー風味のビールは少ないと思いますので(笑)、これは後の方の「種」、つまりコリアンダーシードを意識したものでしょう。他のスパイス、ハーブが漢数字の一、二にまとめられているのと比べると、ビールに認められる原料の中でも別格といっていいかもしれませんね。  もうすこし具体的な例は以下に書かれています。

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平成29年度税制改正による ビールの定義の改正に関するQ&A

これらが認められることで、ベルギービールなど、日本で販売するときに缶や瓶のラベルに何十年もの間、「発泡酒」と表記されてきたものが、堂々と「ビール」と表記できるようになりました。

これだけいろいろあるんだから、何を使っても「ビール」になるんじゃないか、と思われるかもしれませんが、実はそうでもありません。  

例えば、リンクのQ&Aによれば、「かつお節」はビールに使えるのですが「いわし節」や「まぐろ節」など、 かつお以外の魚の節を使うとビールにならない のだそうです。そのように決まった理由にはちょっと興味がもたれるところです。

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HOPPIN’ GARAGEストアで販売中の商品と副原料の使い方

コリアンダーシードといえば、HOPPIN’ GARAGEとしては「ホッピンラガー」です。

また、何度か再発売された「おつかれ山ビール」にも活用しています。
「おつかれ山ビール」といえば、「かぼす」を使っています。これも酒税法改正で使えるようになった「果実」の一つです。また、「アルペンザルツ」は「食塩」です。

チョコミン党にオススメの「Mint Black Waltz(ミントブラックワルツ)」や「黒猫」に使われている「ミント」はハーブにあたります。

「黒猫」では、「ミント」だけでなく、果実にあたるオレンジピール、スパイス(香辛料)の「クローブ」また、「ココア」そのものではありませんが、同じ「カカオ」から作られる「カカオニブ」を使っていますね。

さすがに、野菜、そば、ごま、味噌、海産物までは使っていませんでしたが、こうして振り返ってみると、けっこういろいろな原料を使ってきたものですね。  これからもビールの可能性を広げていけると楽しいのではないでしょうか?

商品画像

サッポロビール株式会社

蛸井 潔(Kiyoshi TAKOI)

<略歴>

1989年東北大学大学院農学研究科農芸化学専攻課程修了。
同年サッポロビール株式会社入社。
35年の社歴の中で研究部門と商品開発部門のキャリアはほぼ半々。
研究ではビールの泡の研究、大麦・ホップの原料評価、ホップの香りの研究などに取り組み、2011年に東北大学で博士(農学)を取得。
商品開発ではホワイトベルグ、ホッピンラガー、映画の余韻など多数の商品を開発。
2023年より価値創造フロンティア研究所シニアフェロー

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