── 「刀剣キラリ」は、どのような思いから誕生したのでしょうか。
OK間さん 僕は、『刀剣乱舞ONLINE』の原作を担当するニトロプラスという会社で作品のライセンス管理を担当している一人として、普段は他社さんと商品化やコラボレーションの窓口を行っています。
また、ゲームが日本刀(刀剣)の付喪神から生まれた刀剣男士が活躍するストーリーというご縁から、刀剣を扱う美術館や博物館、神社さんからコラボレーションのお声を多くいただいています。
当初は刀剣業界のこともよくわかりませんでしたが、学芸員や刀鍛冶の皆さんなど刀に関わる方とも親しくなり、いろいろと業界を取り巻く環境の理解が進みました。
でじたろうとは、ゲームとは別に我々だからできることがあるかもしれないと話をしていて、刀を自ら保有して展示したり、現代刀匠さんに作刀を依頼したり、刀を見ながら飲食ができるお店をつくったり、刀の番組をつくったりしてきました。
今回の「刀剣キラリ」は、HOPPIN’ GARAGEさんにこうした活動にご賛同いただけたことにより、実現しました。
── ビールづくりに挑戦していかがでしたか。
OK間さん 日本刀をビールで表現するというのは、刀剣に携わっている方からは怒られるかもしれないですが、我々だからこそこういう機会で貢献できることがあるのではないかと思っています。
あと僕自身、お酒が好きでちょっと詳しいという自負もありまして(笑)。ぜひ、ビール好きには飲んで欲しいですね。
この人生ストーリーの主人公

OK間さん「『刀剣キラリ』の誕生が刀剣文化を守る活動の一助になればいい」
OK間さん、でじたろうさん、石田四郎國壽さん
「刀剣キラリ」の主人公は、刀剣育成シミュレーションゲーム『刀剣乱舞ONLINE』のライセンス管理を担当する(株)ニトロプラスのOK間さん。
仕事を通して刀剣文化を広める活動を行っています。そこで、今回はOK間さんが愛する「刀剣」をイメージしたビールをホッピンおじさんとともにつくりました。
その名も「刀剣キラリ」。さて、どんな味わいのビールになったでしょうか。
今回は、「刀剣キラリ」の誕生につながる「刀剣文化」について深く聞いてみたくなり、OK間さんとともに、OK間さんの上司で刀剣コレクターであり、『刀剣乱舞ONLINE』原作プロデューサーでもある、でじたろうさん、2人が信頼を寄せる刀鍛冶石田四郎國壽さんの3人で座談会を開催し、お話を伺ってきました。

今回の主人公のOK間さん

刀剣の魅力を語るでじたろうさん
日本刀の魅力は
機能性・精神性・芸術性
── でじたろうさんは、刀剣を40振りほど所有しているそうですね。
でじたろうさん はい。『刀剣乱舞』をつくるためにいろいろと調べるうちに、日本の刀剣文化にはまりました。
刀剣とはいつ生まれて、どんな種類があって……とわかってくればくるほど、これはすごい世界だと思いました。
千年の歴史があり、戦禍や災害をくぐり抜けて残ったものがある。
名刀には「号」と呼ばれる名前が一振り一振りについていますが、後世の人が刀の謂れや逸話などから付けたもの。
世界で見ても一つの武器に名前を付けるという文化はなかなかないですよね。
石田さん 日本刀の定義は特にないのですが、一つ目は「機能性」です。切れないと意味がない。
二つ目は「精神性」。神社に奉納して信仰の対象になったり、守り刀として厄除けを願ったり、畏怖の念を抱けたりするものでなくてはだめ。
三つ目は「美」。装飾ではなく刃そのものが美術品として美しいことも重要です。

モデルとなった打刀を鑑賞する3人
「刀剣キラリ」のこだわりは
切れ味と副原料の「米」
── 今回のビールはOK間さんのどのようなイメージから生まれたのでしょうか。
OK間さん 会社の刀を手入れしていると、一振りだけ不思議と重さを感じさせずに持ってしっくりくる打刀があります。
きっと長さや重心が、僕の腕の長さや筋肉量にぴったりなんだと思います。
この刀は量産型の実践向きで決して高価なものではないですが、以来反りが低い直刃の打刀が好きで、今回はブルワーの方にこの刀のイメージを、切れ味や澄み渡る味わいで表現していただきました。
また、現代において刀の原材料となる「玉鋼(たまはがね)」を生み出す「たたら製鉄」の現状が厳しいと伺っていました。
普段は完成した刀の展示に対するアクションが多いですが、今回は後世への継承にもつながる現代の技術に貢献したいと思い、同じく古くから日本の食文化である米の中から、たたら製鉄とゆかりの深い奥出雲の地で生まれた「たたら焰米」を副原料として使用していただきました。
ここからはWEB限定公開です!

刀剣の定義について教えてくれた石田さん
刀の原料となる「玉鋼」のようなキラリと輝く缶デザインを採用
── OK間さんの刀剣への愛情が様々なこだわりとなって、「刀剣キラリ」に詰まっているんですね。
OK間さん 僕としては、目一杯に自分の思っている刀のイメージをHOPPIN’ GARAGEさんと話し合いながら進め、ビールの出来はもちろん、様々な点で表現させていただいたと思っています。
でじたろうさん 缶のデザインもこだわったみたいだね。
OK間さん 先ほど石田さんから、日本刀(刀剣)は美術品としての美しさも重要というお話がありましたが、通常、刀は手に持って鑑賞します。
そうして刃の姿、形と観ていきながら、肌の具合や刃文の状態を確認します。刀剣を傾けながら光にかざすと、また表情が変わったりして、それも面白い。
だから「刀剣キラリ」の缶も、光の加減で表情が変わるようなものを要望しました。
でき上がったものは、色のグラデーションで刃先が表現されて、缶の素材が透けて見えていますね。この銀色の金属的な部分で、刀剣のきらめきをうまく表現していると思いました。
デザインの色合いもいいですね。刀剣の原料となる玉鋼は、中を割ると七色に輝いていて、とても綺麗なんです。そのイメージにも通じます。
石田さん 玉鋼は炭素量の多い塊で、なぜ七色に輝くのかは謎で、詳しく解明されていません。
ただ、様々な色が混ざっていているわけではなく、七色に輝く仕組みはコンパクトディスクやシャボン玉と同じように構造色を呈しているので、酸化皮膜によりそのように見えているのだと思います。
一般的に鉄はもともと銀色をしていて、熱を加えていくと金色、次に濃い紫、水色と色が変化していき、最終的には漆黒に近づきます。
この色の変化は、鉄の塊の中にある気泡に含まれるガスや酸素の量によって変わっていくので、この缶のグラデーションは、そうした鉄の一面も偶然かもしれませんが表現されていると感じました。

「刀剣キラリ」のパッケージ
日本の伝統である「刀剣文化」の
存続の危機が叫ばれている
── ところで、石田さんとお二人が出会ったきっかけは?
でじたろうさん 刀剣のことをいろいろ勉強していく中で、出会った刀剣商の紹介でしたね。
そこにはなんとなく飛び込みで入ったのですが、店長がとてもいい方で刀剣のことをいろいろと教えてくださったんです。そこでたまたま東京国立博物館に所蔵されている「名物 三日月宗近」の話になりまして……。
「三日月宗近」は、日本刀の中でも特に名刀といわれる5振りを総称した「天下五剣」の一振りで、国宝にもなっています。平安時代につくられたといわれている太刀で、細くて美しい姿が特長です。
しかし、今の細身の姿は長い歴史の中で刃が研がれた状態で、研いだからこそ生まれた結果としての美しさです。
「そもそもの形はもっと太くて、形も違ったのではないか」と、あれやこれや推察しながら話しているうちに、つくられた当時の「三日月宗近」を想像して写しをつくったら面白いのではないかという思いに駆られてきました。
店長にそういうと、「腕のいい若手を知っていますよ」と、紹介してもらったのが刀鍛治の石田さんでした。
石田さん お話をいただく前から『刀剣乱舞ONLINE』のことは知っていましたので、二つ返事で「やらせてください」といいました。
『刀剣乱舞ONLINE』は刀剣界では有名ですから、その原作プロデューサーが「三日月宗近」の制作を依頼してくださるなんて夢のようでした。
▼「三日月宗近」の制作秘話や刀鍛冶の仕事についての石田さんインタビューは、こちらへ。
https://www.hoppin-garage.com/story/toukenbeer/#ishida
—— 石田さんとの出会いのように、様々な人とのつながりが刀剣文化支援活動に力を注ぐ原動力にもなっているんですね。
OK間さん 冒頭でも少し触れましたが、『刀剣乱舞ONLINE』の配信が始まったのが2015年1月。今年で8年目になりますが、その間に展覧会など全国約100ヶ所でコラボレーションを行ってきました。
そこでいろいろな方と話をしていくと、刀剣文化の存続を危惧する声を聞くようになってきたんです。
僕もでじたろうも、ゲームをきっかけに刀剣の魅力に心からはまった人間として、将来にわたって日本の伝統である「刀剣文化」が続いて欲しいと思っていて、そのためには自ら発信して多くの人に知ってもらおうと。
奥深さに気がつき、刀を観たくなり、刀剣が欲しくなる……、いろいろなかたちで微力ながら刀剣文化に役立つのではないかと考えています。
—— その刀剣文化の支援が、たたら製鉄の保存への関心にもつながっていったのでしょうか。
でじたろうさん 我々が直接、保存活動をしているわけではなく、守る活動をしている方々がいらっしゃって、まずはそれを理解しようと思いました。
そこでOK間と昔ながらのたたら製法で玉鋼をつくっている島根県・奥出雲の「日刀保たたら」さんへ見学に行きました。そうしたら、大変な重作業をしながら生産していらした。
OK間さん 20人ほどの職人の方が三日三晩、燃えさかる火の前で木炭と砂鉄を入れ続けながら溶かしている。少し近づくとすさまじい熱気でした。
奥出雲はこうしたたたら製鉄がさかんな地だったのですが、現在は「日刀保たたら」だけが操業しています。
できた玉鋼は、ここから全国にいらっしゃる刀鍛治さんに届けられています。逆にいえば、「日刀保たたら」さんが生産できなくなると、刀鍛治も日本刀をつくることができなくなってしまいます。
石田さん 実はたたら製鉄は、近年の戦争などの関係で何度か途絶えています。「日刀保たたら」が昔ながらのたたら製鉄を復活できたのは、戦中でも靖国神社で行っていた「靖国たたら」でつくっていた方がご存命で、つくり方を知っていたからです。
今でも限られた人々がその製法を受け継いでいるに過ぎません。伝統文化は、守ろうという意識がないと簡単に途絶えてしまうものなのです。

座談会の後は、「刀剣キラリ」をみんなで試飲
先人たちへのリスペクトを込めて
これからも刀剣文化を広めたい
—— 石田さん、『刀剣乱舞ONLINE』の誕生によって、「刀剣」の魅力に気づいた方も大勢いますね。
石田さん 『刀剣乱舞ONLINE』の人気から刀剣界の変わりようのすごさといったら、半端ありません(笑)。
以前は刀の鑑賞会を開いても高齢の男性がほとんどでしたが、ゲームの人気の高まりにつれて、女性の方も多く来場されるようになりました。
でじたろうさん そうですか(笑)。うれしいですね。
僕らもゲームを開発した当初は、勉強のために美術館や博物館に刀剣を観に行っても人が少なくて……。こんなに魅力的なものなのに、もったいないという思いがあって。
だからゲームがヒットしたら、恩返しというか、もっと足を運んでもらえるのではないかと思って、スタッフともそこを一つの目標にしてきました。
けれど美術品などの文化的なものと、我々のエンターテインメントには壁があると思う方がいるのも理解できますし、そのお気持ちを尊重したいと考えています。
だから、コラボレーションも先方からお声がけいただいたときにだけ、「できる限りやりましょう」というスタンスでやってきました。それが徐々に評判が広がって 、今があります。
『刀剣乱舞ONLINE』から刀剣に興味を持ったお客様も、きちんとルールを守って観てくださっているようで、そこにもやはり刀剣文化へのリスペクトが浸透しているように感じています。
石田さん きっとこの「刀剣キラリ」を飲んだことがきっかけで、刀剣に興味を持ってくれる方もいらっしゃるでしょうね。
OK間さん 「刀剣キラリ」は、僕が仕事として刀剣に出会い、この8年間で培った経験と知見のすべてを大好きなお酒にぶつけたビールです。
このビールをきっかけに、刀に興味を持ってもらえたり、展覧会に足を運んでもらったりしたら、とてもうれしいです。
HOPPIN’ GARAGEは、主人公の人生ストーリーをビールで表現するのがコンセプトですが、僕としては「刀剣キラリ」自体が刀剣文化を守る活動の一つと捉えています。
(株)ニトロプラス
ゲームやアニメ等エンターテインメント事業を手掛けるコンテンツ会社。『刀剣乱舞ONLINE』の原作を担当。2021年に『刀剣乱舞』による利益の中から刀剣文化支援を行ってきた実績が評価され、紺綬褒賞を授与された。
(株)ニトロプラス ライセンス管理 OK間さん
ニトロプラス関連作品のライセンス管理を担当。「OK間」はニトロネーム※。『刀剣乱舞ONLINE』などの対外窓口を行う傍ら、刀剣文化拡大を日々思案。趣味はお酒。
『刀剣乱舞ONLINE』制作プロデューサー でじたろうさん
(株)ニトロプラス代表取締役社長 小坂崇氣。「でじたろう」はニトロネーム。『刀剣乱舞ONLINE』の原作制作のため刀剣に出会いその魅力にはまる。現在は40振り以上の日本刀を所有する。
※ニトロネームとは、(株)ニトロプラスで公式的にも使われているニックネームのこと。

刀の鑑賞の仕方を教えてくれている石田さん
現代の刀鍛冶 石田四郎國壽さんインタビュー
日本刀は「練る」ことで強靱になる
——国宝「太刀 三日月宗近」の写しを頼まれたことが、でじたろうさんたちとの出会いだったそうですね。
石田さん はい。「太刀三日月宗近」は、日本刀を代表する名刀で、平安時代につくられたといわれます。しかし、なぜかほとんど写しがありません。
お話をいただいたときは、とても興味が湧きましたし、「できない」とはいいたくありませんでした。
——そもそも刀は、どのようにつくるのでしょうか。
石田さん 砂鉄と木炭を用いて鋼をつくるのが「たたら製鉄」です。刀は、その中心部分の最も鉄の純度の高い「玉鋼」を使用してつくられます。
日本古来の製鉄方法を用いていない刀は、日本刀として登録ができません。刀鍛冶はこの玉鋼から刀の形をつくるまでが仕事で、刃を研ぐのは研師さん、鞘と刀を留める金具をつくるのは白銀師さんと、刀は分業制でつくられます。
——玉鋼の塊を延ばしてつくる?
石田さん 鋼を延ばすというより、「練る」のが日本刀の特徴です。熱した玉鋼を叩いて延ばし、切って、折り返す。これを一万枚ほどの積層にすることで、強靱な刀ができます。
——「復元 三日月宗近 真打」の制作はいかがでしたか。
石田さん 「太刀三日月宗近」の特徴は、名の由来にもなった三日月形の「打ちのけ(刃の模様)」があることです。
しかもそれが上手く現れるかどうかは、研ぐまでわからないので、そこは苦労しました。実験を含めると、完成までに10振り以上つくりました。
——大変なお仕事でしたね。
石田さん 2年ほどかけて、自分でも納得の一振りができました。刀剣界は『刀剣乱舞』のお陰で明るい兆しが見え始めています。その生みの親である、でじたろうさんの刀を打てて光栄です。

石田さんが打った「復元 三日月宗近 真打」の刃文 撮影:(有)藤代
石田四郎國壽さん(いしだ・しろう・くにひさ)
1995年に河内國平(奈良県無形文化財保持者)に入門。2001年に文化庁より美術刀剣類製作承認を受ける(石田四郎國壽)。現在は群馬県で工房を構えて活動。名刀の写しに力を注ぎ、定評がある。

玉鋼 ©日刀保たたら(公財)日本美術刀剣保存協会
日本の伝統を守る刀の原料
「玉鋼」とは
■玉鋼とは
日本刀の原料となる「玉鋼」は、純度の極めて高い和鉄です。職人が三日三晩、砂鉄と木炭を装入し、燃焼させ続けてできた和鉄のさらに中心部分のみが、玉鋼として使われます。
こうしてつくられる玉鋼は、軟らかで伸びやか。この柔軟性が、日本刀の折り返し鍛錬に適し、独自の美しい肌模様をつくり出します。
写真提供 ©日刀保たたら(公財)日本美術刀剣保存協会

たたら製鉄の様子 ©日刀保たたら(公財)日本美術刀剣保存協会
それを生み出す「たたら製鉄」とは
■たたら製鉄の今と未来
たたら製鉄の技法は大正時代に一度は途絶えましたが、現在は奥出雲の「日刀保たたら」で行われています。このたたらは(公財)日本美術刀剣保存協会が主催運営をしており、全国の刀匠へと玉鋼を送り届けています。
(公財)日本美術刀剣保存協会は、刀職者への原材料確保と、たたら製鉄の技術を未来へ継承するため、様々な活動をしております。皆さまには、「たたら製鉄」や「日本刀」などの伝統文化に興味を持っていただきたく思います。
刀剣文化の継承を願い、販売数に応じて1本あたり10円を、(公財)日本美術刀剣保存協会に寄付し、「たたら製鉄」の保護活動に貢献します。
●対象期間 / 2023年8月1日(火)〜10月31日(火)(3ヶ月間)
写真提供 ©日刀保たたら(公財)日本美術刀剣保存協会
『ホッピンおじさんのあとがき』
3人の刀剣への愛情がたっぷり詰まった座談会。「伝統は守る意識がないと、簡単に途絶えてしまう」という石田さんの言葉は、はっとさせられるものがありました。
OK間さん、でじたろうさんの「自分たちができること」を考えて行動した姿にも敬意を表します。刀剣文化の末永い継承を願って。乾杯!
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HOPPIN'GARAGE(ホッピンガレージ)は、お客様との共創によるビールづくりを展開するサッポロビールの新しいブランドです。魅力的な人々の人生ストーリーをもとに多様性あふれるビールを生み出し、そのストーリーを味わいながら飲むという、これまでにないビールの楽しみ方をお届けします。新作ビールを2ヶ月に1回お届けする定期便サービスも展開中です。
https://www.hoppin-garage.com/