神戸・六甲ビール醸造所。兵庫県・六甲山の麓に位置し、厳選された麦芽や酵母、地元の特産物、六甲山の名水などを使用してビールをつくり続けるブルワリーです。
この人生ストーリーの主人公
ビールの道を諦めきれなかった。新卒の入社先を3ヶ月で退社して六甲ビールに入った景山さんが思う「ビールの魅力」とは?【ホッピンフレンズブルワー紹介】
ホッピンフレンズブルワー 六甲ビール景山 翔太さん
全国各地のコンビニやスーパーで、色とりどりの山のイラスト、印象的なロゴが描かれた缶ビールを見たことがある方も多いのではないでしょうか?
今回は、建築家・岡啓輔さんの人生ストーリーをもとに、IPAなのにアルコール度数が低めの3.5%「TINY HAZY IPA」をつくった六甲ビール・景山翔太さんに、六甲ビールについてやブルワーを目指したきっかけ、ビールに対する思いを伺いました。
日本人の口に合う「独自の文化」をビールでつくる
──まずは、景山さんが勤める六甲ビール社について教えてください。
景山さん:六甲ビールは、1997年に創業した神戸のブルワリーです。当社の大きな特長として、「いろいろなビールづくりの文化を、独自の文化に昇華している」ところがあると思っています。
──「独自の文化に昇華する」とは、どういうことでしょうか?
景山さん:たとえば、ナポリタンって日本独自の文化じゃないですか。パスタなので海外発祥だと思われるかもしれませんが、ナポリタン自体は日本発祥なんです。「パスタ」という海外の文化を、いろいろな食材を組み合わせることで日本の文化に昇華している。そういったことに、日々ビールで挑戦しているイメージですね。
具体的には、ベルギー産の酵母を使ったビールにアメリカ産のホップを融合させることで、日本人の口に合った独自のビールを開発したり……。
──なるほど! わかりやすいです。
景山さん:日本は料理大国で、世界で見ても特に味にこだわる文化がありますよね。そんな日本人の繊細な味覚にも合うように、レシピ設計はもちろん、醸造工程でのリスク管理を徹底して、細部にまで注意しながらビールをつくっています。
新卒で入った会社を3ヶ月で退社して、ビールづくりの道へ
──景山さんが醸造の道に進んだきっかけは何だったのでしょうか?
景山さん:学生時代からお酒が好きでよく飲んでいました。ある時、ふと入ったビアバーでクラフトビールを初めて飲み、「こんなに多様性のある飲み物があるんだ!」と感動してのめり込んでいったんです。
ビールがきっかけとなって人同士がつながり合ったり、ビール一本で地域性を感じることができたり、クラフトビールにいろいろな要素があるのがおもしろいなと思いました。単純に飲みものとしての役割以上の力を持っていると感じたのが、ビールの道に進もうと思った最初のきっかけです。
──それでは、新卒で六甲ビールに?
景山さん:いえ、実は新卒ではメーカーに入社して営業をしていたんです。でもビールづくりへの思いを捨てきれず、会社を3ヶ月半で辞めて六甲ビールの門を叩きました。
──すごく思い切った決断ですね!
景山さん:猪突猛進というか、これと決めたらその道に進んでしまう性格なので、辞めることに迷いはなかったですね。でも、メーカーの営業職を最初に経験したことで、自分は「売る」だけではなく「つくる」ところから携わりたいんだ、と気づけたので短いけれど貴重な3ヶ月間だったと感じています。
しかもビールづくりは、単純に醸造するだけじゃなく、企画から開発、そして流通まで、全てを自らつくり出せる仕事。私にとってビールづくりは一番おもしろい仕事だと思い、この道に進むことを決めました。
──ブルワリーが他にもたくさんある中で、六甲ビールを選んだ理由は何でしょうか。
景山さん:クラフトビールは、地域性を表現できるビールです。私は兵庫県出身なので、せっかくなら地元の特産物を生かしたビールづくりをしたい気持ちが強くありました。
あとは、六甲ビールが缶製品を扱っているというところも大きな魅力でしたね。缶をつくるブルワリーは、スーパーやコンビニにも卸しやすいので露出が多い。私は多くの人にクラフトビールの魅力を伝えたいので、そうなると販売力は絶対に必要です。いろいろな点が合致して、六甲ビールに入りたいと思いました。
──ビールをつくるためには、専門的な技術や知識が必要だと思いますが、どうやって学んだのでしょうか?
景山さん:六甲ビールには、「自ら考え、自ら行動する」という考えがあります。醸造の勉強はまったくしたことがありませんでしたが、ビールをつくりたいといって入社したので、業務内でも外でもかなり勉強しましたね。
会社の設備を使わせていただきながら、実務経験とともに知識をブラッシュアップしていく。ビールづくりの技術は日々進化していくので、新しい情報も常にキャッチしながら、今もまだまだ勉強中です。
ビールを通じて、いろいろな職種に関われる
──景山さんがビールをつくるときに大事にしていることについて教えてください。
景山さん:一番大事にしているのは、「ビールがお客さまの手元に届いたときにベストコンディションになるようにつくる」ことです。ビールは酸素を含んでしまうとおいしくなくなってしまうので、酸素に触れる可能性がある部分を徹底的に排除して醸造工程を組むところは、もっとも大切にしていますね。
あとは味だけではなく、価格や賞味期限の長さなど、お客さまが手にとるためのいろいろな要素を全て設計してレシピを書くようにしています。
──実際にビールづくりに携わるようになって気づいたおもしろさや魅力はありますか?
景山さん:ビールの「汎用性の高さ」は、大きな魅力のひとつです。私はスポーツが大好きなのですが、ビールは、そういった自分の大好きなことともかけ合わせることができるなと気づきました。
たとえば去年も、阪神タイガースとコラボしてビールをつくったんです。自分がやりたいことを、ビールだったらどんどん実現できる。そこも含めてビールづくりはおもしろいと常々感じます。
IPAなのにアルコール度数3.5%! 常識を覆す岡さんの人生ストーリーから生まれた「TINY HAZY IPA」
──今回つくった「TINY HAZY IPA」について、詳しく教えてください。
景山さん:今回製造した「TINY HAZY IPA」は、アルコール度数が3.5%という、低アルコールのIPAです。
岡さんは、着工から17年かけて現在も未完のビルをつくり続けるという、挑戦的でアグレッシブな姿勢を持っていらっしゃる方です。そういった岡さんの姿勢をレシピにも重ね合わせようと、我々がこれまで醸造してきた知見の少ない「低アルコールのIPA」に挑戦してみたいと思いました。
──低アルコールのIPA、とっても気になります……!
景山さん:アルコール度数を下げることによって、ボディ感やビールの持つ香味が痩せてしまう可能性が懸念点としてあったのですが、そこをケアするために、モルトやホップの量、原材料の品種選定などを丁寧に行い、3.5%でありながらも、一本で満足できる、かつまたふと飲みたくなるというようなビールの設計を追求してレシピに落とし込んでいます。
──今回のビールは、どんな方に届けたいですか?
景山さん:アルコール度数3.5%で本格的なIPAは、マーケットを見ても少ないおもしろいビールだと思います。サッポロビールさんと一緒だからこそ、多くの方にこのビールを飲んでいただき、ビールの多様性を伝えられるとうれしいですね。
あとは、同じ岡さんの人生ストーリーから生まれた他のブルワリーさんのビールともぜひ比べて飲んでみてほしいです!
六甲ビールのブルワーメンバーとHOPPIN' GARAGEチームの1枚
2月ホッピンフレンズセット
ホッピンフレンズでは、全国で活躍するブルワーたちの人生にも続々と焦点を当てていきます。次回のブルワー紹介もお楽しみに!