ビアスタイル講座
サワーエールとはどのようなビール?魅力やおすすめ商品、美味しく飲む方法を紹介!

サワーエールとはどのようなビール?魅力やおすすめ商品、美味しく飲む方法を紹介!

「脂っこい料理に合う、さっぱりしたビールが飲みたい」 「酸味のある、一風変わったビールを飲んでみたい」 そんな時には、酸味が特徴のサワーエールをおすすめします。サワーエールは、「Sour(酸っぱい)」という名前の通り、強い酸味やフルーティーな酸味を楽しめるビールです。

この記事では、サワーエールについて、以下の内容をご紹介していきます。

サワーエール

1.酸味は危険のサイン?

甘み、塩味、酸味、苦み、うま味。人間が感じる基本的な味わい『基本五味』です。 ビールでまず思い浮かぶのがホップの苦みです。それから、麦芽に由来する甘みやうま味。 そして、実は、塩味や酸味を感じるビアスタイルも存在します。ビールは基本五味の全てを味わえる珍しい酒類なのです。 その中でも、苦味は毒物、酸味は腐敗、と危険を連想させるため、人間は本能で忌避すると言われています。しかし、色々な物を味わい、経験を積むことで味覚は変化します。苦味や酸味を食しても体に影響がないことを学習して、場合によってはそれを好むようになるのです。これを『後天的味覚』と呼んでいます。 後天的味覚である苦味や酸味を嗜めるビールは、アルコール飲料ということを除いても、大人の飲み物、と言えると思うのです。

前置きが長くなりましたが、今回は、酸味が特長のサワーエールを取り上げてみます。

2.伝統的なサワーエール

通常のビールだと、酸味は醸造過程や保管に問題がある証とされますが、ヨーロッパ大陸に古くから伝わるビアスタイルには、その酸味を特長とした物が少なからず存在します。

2.1ベルギー発祥

2.1.1ランビック サワーエールの代表格です。ベルギーの伝統的ビールで、首都ブリュッセルを流れるゼンヌ川の周辺領域で主に醸造されます。この地域に存在するマイクロフローラ(微生物叢)が、ランビックの醸造に適しているのです。 抗菌作用を活かすため2~3年置いて苦味を消失させたホップを使用する、複雑な糖化・煮沸工程を用いるなど、伝統的なランビックと一般的なビールの醸造にはいくつか相違点がありますが、中でも特長的なのが麦汁の冷却工程です。普通、ホップを加えて煮沸した麦汁は、バクテリアなどによる汚染を防ぐため、外気に触れないよう高速で冷却して発酵温度まで下げますが、ランビックでは、この工程で底が浅く、液面が広く空気に触れるようになっているクールシップを使用します。このプールのような形状の冷却槽は醸造所の屋根裏に設置されていて、煮沸後の麦汁を注ぎ込み、窓を開けて一昼夜時間をかけて徐々に冷却することで、周囲を浮遊している野生酵母や微生物を取り込み、発酵に利用するのです。 その代表的な物として、酸味や、馬の毛布と例えられる独特の風味を生み出すブレタノマイセス属酵母、乳酸菌の中でも通常ビール造りには用いないベティオコッカス属、細菌の一種エンテロバクター属などがあり、発酵工程では互いに主導権を握りあって複雑な味わいを造り出します。 環境の変化で品質が変わらないよう、屋根裏の掃除などは行いません。たとえ蜘蛛の巣があっても、蜘蛛は蠅などを捕食する益虫としてそのままにしておく徹底ぶりです。

発酵後、樽熟成された物をストレートランビック(以下ランビック)と呼びますが、熟成年数の異なるランビックをブレンドしたグーズや、フルーツを使用したフルーツランビックが比較的入手しやすいでしょう。

・グーズ 若いランビックと、より熟成させたランビックをブレンドして瓶詰めを行い、瓶内でさらに発酵させた物です。日本でも各醸造所のグーズが入手出来ますが、特にカンティヨンのグーズは口をすぼめるほどの酸味を感じます。

・フルーツランビック ランビックに果実を漬け込む物、果汁やシロップを使用した物など様々な種類があります。代表的なのは、クリーク(さくらんぼ)やフランボワーズ(木いちご)です。変わり種として、リンデマンスではカシス、桃、りんご、デ・トロフではバナナ、いちごを使用した物を造っています。いずれも低アルコールで、250ml瓶と試しやすいサイズになっています。

・ファロ 酸味をやわらげるため、ランビックに糖を添加して甘みをつけた物です。かつてカフェではランビックに角砂糖を入れて、ストゥンペルという専用の道具でそれを崩しながら飲んでいました。現在、日本にも輸入されています。

ランビックに関しては、自ら醸造は行わず、醸造所から原酒を購入してそれをブレンド、熟成して販売する『ブレンダー』が存在し、それも特長の1つとなっています。

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フルーツランビックの1つ、リンデマンス『ベシェリーゼ』。フランス語の、『桃』と『罪深い』をかけた意味深なネーミング

2.1.2レッドエール 主に西フランデレン州で造られます。 赤大麦の麦芽を使用するため、液色もワインのように赤茶色です。発酵させた後オーク樽で熟成、若い物とより熟成した物をブレンドして造られます。熟成の過程で、乳酸菌による発酵が行われることで酸味が付与され、木樽のタンニンやカラメルも味や色に影響を与えます。 木樽の中には非常に巨大な物もあり、ローデンバッハは、日本でビール醸造免許取得に必要な年間生産量を上回る65klのオーク樽を所有しています。

2.1.3ブラウンエール 主に東フランデレン州で造られます。 仕込には重炭酸ナトリウムを多く含んだ水を用い、煮沸を長時間行うなどの特長があり、レッドエールと同様、若い物とより熟成した物をブレンドします。ブラウンエールも乳酸菌や野生酵母が作用し、甘酸っぱく、複雑な味わいとなります。

2.2ドイツ発祥 ビール純粋令で知られるドイツにも、乳酸菌や副原料を使用したスタイルが存在します。

2.2.1ベルリーナ・ヴァイセ ドイツの首都、ベルリンが発祥。 小麦麦芽を25~50%使用、ホップの添加量は少なく、アルコール度数も3%程度が多いです。そのままでは酸味が強く飲みづらいことから、ヒムベア(ラズベリー)や、ヴァルトマイスター(クルマバソウ)のシロップを入れて飲むのが一般的です。 ナポレオンの軍隊が、『北のシャンパン』と呼んだことでも知られています。

2.2.2ゴーゼ ドイツ中心部のやや北、ハルツ地方の街ゴスラーが発祥。 塩やコリアンダーなどで風味を付けるのが特長です。大量に汗をかく鉱山労働者が必要な塩分、ミネラル、水分を補給するために開発されたという、ビールと人との距離の近さを感じさせるような説があります。

元々これらのスタイルは、ホップや副原料で煮沸した麦汁にエール酵母を添加して主発酵させた物と、普通の麦汁に乳酸菌のラクトバチルス属のみを添加し発酵させた酸味のある物をブレンドして造っていたと言われています。

3.アメリカのサワーエール

2010年代、アメリカ発のIPAが世界を席巻していたころ、次に来るのは酸っぱいビールだと言われていましたが、アメリカでのサワーエール造りは、そのずっと前から試みられていました。 1990年代中盤には、その名もニューベルジャンという醸造所が天然酵母や細菌を使ってオーク樽で熟成する方法を導入しました。その後、ロシアンリバーがワイン樽を使ったサワーエール造りを始めるなど、木樽熟成を導入するブルワリーが増えていきます。やがて、サワーエール専門のカスケード、木樽熟成専門のレアバレルといった個性的な醸造所が続々誕生します。 そんなアメリカのサワーエールは、伝統的な物と比べて副原料の使用が多いのが特長です。ヨーロッパのスタイルでは果物や砂糖、塩やコリアンダーが使用されていますが、アメリカでは伝統に囚われず、これら以外にも、ハーブや花、香辛料など様々な物を使用して香味を工夫しました。ベルリーナ・ヴァイセやゴーゼは、一度は消えかかったものの自由な解釈でアメリカで造られた物が話題となり、再発掘に繋がったと言われています。 このように、サワーエールはアメリカを経由し、後述する新しい製法も採用することで、クラフトビールムーブメントの一翼を担うようになったのです。

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カスケードの『LA RITA LOCA』。ゴーゼとは書かれていませんが、海塩とコリアンダーを使用しています

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リトルビーストの『hot break』。ラクトバチルス属の乳酸菌で酸味を付与しています

4.近代的サワーエール

伝統的なサワーエールは、野生酵母や乳酸菌により発酵、熟成工程で酸味を付与する製法が一般的です。その他、サワーモルトの使用や、サワーマッシュという製法もありますが、近年さらに新しい製法が考案され、広まりつつあります。最後にそれを紹介します。

4.1ケトルサワー ケトルとは煮沸釜の事です。 通常、醸造工程は、

糖化→麦汁ろ過→煮沸→凝集物除去→麦汁冷却→発酵

の順番で行われますが、ケトルサワーは、

糖化→麦汁ろ過→乳酸生成→煮沸→凝集物除去→麦汁冷却→発酵

のように、ろ過後、煮沸釜に移した麦汁にラクトバチルス属の乳酸菌を添加して乳酸を生成、目指したpHになったところで煮沸して乳酸菌を死滅させます。その前後は通常のビール造りと同じ流れです。 この方法では乳酸菌が煮沸釜だけに存在して、しかも確実に死滅するため、醸造設備が汚染されるリスクが小さくなります。

4.2ラカンセア属酵母 もう1つは、ラカンセア属酵母の使用です。フィラデルフィラ科学大学が自然界から選抜した物がWILDBREW™フィリーサワー酵母として流通しているので、この名前の方がおなじみかもしれません。 ラカンセア属の特長は、発酵時にエタノールとともに乳酸を生成することです。通常ビール醸造で用いるサッカロマイセス属を使用せず、ラカンセア属のみで主発酵を行うことも可能です。

ケトルサワーでは汚染のリスクが小さくなりますが、ラカンセア属酵母の場合は乳酸菌を使用しないため汚染のリスクはゼロとなります。

これらは、伝統的製法に比べて風味の複雑さに欠けるとも言われます。しかし、乳酸菌などによる汚染は、醸造所にとっては大きな問題です。そのハードルが下がり、新しくサワーエールに挑戦する醸造所が出て来ることで、業界がより活性化することが期待出来ます。

ここまで、サワーエールについて簡単にまとめてみました。未経験の方は、この機会に是非試してみて下さい。

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  • ペンネーム:長畑 勝則
  • 初代びあけんマスターズ。初回1級を最高得点で合格。その後、びあけん初の2級/3級同時満点賞獲得。昼飲みが好きで、特にビアガーデンでビールを飲みながら読書をするのが至福の時。ビールのおかげで出会えた人達と、イベントなどで楽しく乾杯させてもらっています。座右の銘は『祭ある所に酒あり』。
  • びあけん1級合格回数:7回
  • 居住エリア:北海道札幌市
  • 好きなビール:NORTHCOAST『OLD RASPUTIN』
  • 好きなビアスタイル:ヘレス、ケルシュ
  • 最近注目しているブルワリー: Streetlight Brewing。地元札幌のブルワリー。コラボも積極的に行っていて今後が楽しみです。
  • 最近飲んで美味しかったビール:うちゅう『QUARK』,『KABUKI』。ほとんどスムージーの味わいですが、ビールのポテンシャルを改めて感じました。

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