クラフトビール入門講座
ビールにとっての品質劣化とは?メカニズムや対策について解説

ビールにとっての品質劣化とは?メカニズムや対策について解説

ビールは「生き物」と表現されるほど、非常にデリケートな飲み物です。 製造条件が少し変わるだけで、完成するビールの香味が劇的に変化することも珍しくありません。

また、一見同じ香味のビールが完成したように見えていても、長期的に品質を見ると差が出てくることも。 つまり「ビールが劣化するスピードをいかに抑えられるか」ということは非常に重要なポイントとなります。 本記事では、ビールを美味しいままお客様に飲んで頂くためのポイントを、製造工程・購入後の保管の観点から解説していきます!

微生物は香味に直結する。でもそれだけじゃない!

ビールは、未開栓の状態であれば液そのものが腐敗することはありません。 そもそも、ビールは微生物による攻撃に対して非常に強い飲み物であり、その理由はいくつかあります。

  • ホップ成分(イソα酸)による抗菌作用があるため
  • アルコールが含まれているため
  • pHが低い(=酸性)のため
  • 炭酸ガスが含まれるため etc.

しかし、例外的にビール環境でも増殖できる微生物が存在し、これらは重要な管理項目として厳しい出荷基準が定められています。

微生物は増殖すると、独特の匂いと濁りを引き起こします。例えば酪酸を生成する微生物がビールで増殖してしまった場合、乳製品のような匂いがビールにつき、著しく香味品質を損なってしまいます。

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このように、丁寧に醸造したビールでも微生物混入によって香味が台無しになってしまうため、ビールメーカーでは最終製品の微生物検査に加え、製造場内の微生物状態もしっかりモニタリングしています。

ただ、微生物の影響が及ぶのは健康や香味だけではありません。 ビール環境でも増殖できる微生物にはもちろん酵母も含まれるのですが、実は酵母も厳しく管理されています。 「ビールにそもそも酵母が含まれているじゃないか」と思われる方もいるかもしれませんが、酵母入りの品種を除いては、ろ過が終了した段階で酵母は「絶対にあってはならないもの」という扱いになります。

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理由は、充填した製品に酵母が混入した場合は再度発酵が起こってしまうリスクがあるためです。 生ビールであれば加熱殺菌をしないため、なおさらリスクが高いと言えます。 発酵が起こればもちろんアルコール分は上昇していきますので、表示されているパーセンテージよりも高くなってしまう可能性があります。

アルコール分の表示には「酒類業組合法」などが規定しており、ビールに関しては表示±1.0%の範囲を超えてはいけないと定められています。「ホッピンラガー」であればアルコール分は5.0%と表示していますので、6.0%を超えると法令違反になってしまいます。 何より、表示より1%も2%も高かったら、お客様にご迷惑をおかけしてしまうため、絶対に避けなくてはなりません。

透明で美しい状態をキープするための工夫

微生物だけでなく、物理的・化学的要因によって濁ってしまうリスクもあります。

低温による濁り

ビールはタンパク質とポリフェノールが豊富に含まれているため、低温環境ではこれらが結合して濁りを引き起こすリスクがあります。軽度であれば常温で再び透明に戻りますが、濁りやすいビールを長期間低温で保管すると、永久に濁りが消えない場合もあります。

とはいえビールは低温で保管して飲むものですので、製造工程の中で濁りの要因をしっかり除去してあげることが必要です。 具体的には十分に麦汁を煮沸し、発酵後も十分な低温期間を設けるなどして、濁り物質をわざと生成します。これを除去してから製品化することで、お客様に届くビールには濁り要因を持ち込まないようにしているのです。

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シュウ酸による濁り

他にも、麦芽や副原料由来のシュウ酸がカルシウムと結合することで濁ってしまうこともあります。

これを防ぐために、ビール中のシュウ酸イオン・カルシウムイオンの濃度を緻密にコントロールしたり、①同様にわざと工程内で濁らせてから除去することで、最終製品の透明度をキープしています。

どんなに丁寧に製造しても…保管環境の重要性

これまで、品質を長く維持するための製造上の工夫を紹介してきました。しかし油断は禁物で、購入後の保管に関しても注意点がいくつかあります。

冷凍庫保管で濁ってしまうケース

ビールを早く冷やしたいときに冷凍庫に入れる方もいると思いますが、冷凍は絶対的にNG。 泡立ちや香味が損なわれてしまうほか、麦芽や水由来の成分が析出して「凍結混濁」という濁りを引き起こす原因となります。

また、ビールテイスト飲料の凝固点は、アルコール5%であれば-2℃付近、ノンアルコールビールであれば0℃付近です。 一般的な家庭用冷凍庫では簡単に凍結しするため、缶が大きく変形・破裂する要因となるので注意しましょう。

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高温環境で酸化が進んでしまうケース

ビール容器内の酸素は極めて少なくなるように充填されていますが、ゼロではありません。高温であるほどわずかな酸素による酸化が早く進行するため、欲を言えば20℃以下での保管が望ましいとされています。

大麦由来の脂質が酸化されると「老化臭」という独特の香味が生じてしまいます。ちなみに筆者の感覚では、老化臭はサツマイモのような匂いに感じます。

日光にさらされて香味が悪化するケース

紫外線によりビール中の苦味成分の一部が分解し、ビール中の他成分と結合して「日光臭」と呼ばれる臭いが生成されてしまいます。 日光だけでなく蛍光灯でも同じ現象が起こる可能性があるため、特にびんビールは暗所で保管すると良いでしょう。

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最後に

技術的な話も交えつつ、ビールの品質劣化防止策について紹介しました!

美味しく造られたビールを美味しいまま飲んで頂けたら、それ以上に幸せなことはありません…。 黄金色に透き通り、ホップと麦芽が豊かに香ったビールを、これからも守っていきたいですね!

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サッポロビール株式会社

飯村 瑞季(Iimura Mizuki))

<略歴>

2022年東京農工大学大学院農学府応用生命化学専攻修士課程修了。
同年サッポロビール株式会社入社。
入社後は千葉工場パッケージング部に所属し、充填・包装工程の管理や技術開発に取り組む。
学生時代、「注ぎ分け」の魅力を提供するビアスタンドで勤務した経験から ビールが持つパワーや奥深さを自らの言葉で発信したいと考え、記事執筆の社内副業に従事中。

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