クラフトビール入門講座
プロの注ぎ手に聞いてみた!『スイングカラン』×『熟練の技』で引き出されるビール本来の美味しさ
2024.12.03
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今回のテーマはビールのカランや注ぎ方について。 ここは是非「注ぎ方のプロ」に話を聞きたいと思い立ち、JR大船駅東口からすぐの場所にあるBEER STAND MINATO (ビールスタンドミナト)にお邪魔してきました!
店に入るとまず目に入るのは、
煌々と輝く8本のビールサーバー。
そのうちの4本は、店主・木村明宏さんが並々ならぬ熱意を注ぐ伝統的なサーバー
『スイングカラン』です。
持ち手が横向きになっているものがスイングカラン。
縦向きになっているのは一般的な現代サーバー。
ちゃっかりビールを頂きながら、スイングカランやビールを取り巻く環境についての木村さんの想いを聞いてみます。
お伺いした日のゲストビールは、エーデルピルスでした!
昭和の復刻ビールサーバー『スイングカラン』の魅力
——「ビールスタンドミナト」を開業した経緯を聞かせてください。
店主・木村明宏さん
元々は、ボクソン工業株式会社というビールサーバーメーカーに勤務していて、当時色々な飲食店に足を運びました。ビールって飲食店がしっかり管理をするものなんですが、メンテナンスに至る理由の多くは人的ミスなんです。これを改善していかないと、このままではビールが管理・提供される環境はどんどん下がって、皆がビールを飲まなくなる。そんな危機感を覚えたことが第一でした。 これに対して自分に何ができるかを考えた結果、やはり飲食店から発信するしかないというところに辿り着きました。会社の中で飲食店事業を立ち上げることも考えたんですがそれも難しかったので、もう気持ちも抑えられずに「自分で始めよう」と。
——ビールを提供する環境という面で、特にこだわったところは?
スイングカランを使うことは自分の中ではマストでした。 ボクソン工業時代に実際に作っていたものなので愛着もありますし、単純にこれで出すビールが個人的に一番美味しかった。自分が信じる「美味しい」を伝えて、お客様にもビールの美味しさを知ってもらいたいと思いました。 使わないことには将来に残っていかないものでもあるので、自分が店で使い続けることで興味を持ってくれた方がいたら良いなと思っています。冷蔵庫も設置して空冷式(格納式)にしています。スイングカランに合わせた配管の都合上、そうする必要があったというのもありますが、じっくり冷やすことでビールにストレスを与えないという意味もあります。
せっかくなのでエーデルピルスの一度注ぎを。美しい!
この後、サーバーごとに独立した減圧弁や、樽を冷蔵庫内で静置させる日数についても伺いました。ここまで設備や管理にこだわるのには、やはりこんな想いがあるそう。
飲食店の人は、設備のことを知らない人が意外と多いです。中味の知識も大事ですが、設備をちゃんと理解してあげないと、結果的に困るのはお客様であったり、将来のビール需要に関わってくる。 やっぱり、設備の重要性は伝えていきたいですね。
とにかく間口を広げてビールに興味を持ってもらうこと
——何種類もの注ぎ分け・銘柄を提供しようと思ったのは何か想いがあったんですか?
とにかく間口を広げて、ビールに興味を持つきっかけを提供することを重視していました。 自分は個人的に一度注ぎが好きなんですが、一時期、重富さん(広島の有名店「ビールスタンド重富」の店主として活躍するビール伝道師)のイベントに同行させてもらっていた際にお客様を見ていたら、一度注ぎは苦手だけど三度注ぎは美味しいと言う方もいる。同じビールなのに好みが分かれてしまうというのは、言い方を変えれば「同じビールでも色々な方が喜べる」ということなんですよね。そういう環境はつくれるんだということを目の当たりにしました。ビールへの入口として、こういう形も良いなと思ったことが理由です。
銘柄を各社揃えたのは、シンプルに「どのメーカーも美味しい」ということを伝えたかったんです。 とはいえ、「このビールしか飲まない」っていう方もいるじゃないですか。でもうちは各社あるから来てもらえて、ここで他の銘柄を飲んだり、また違う好みの方を連れてきてくれたりする。 どこが入口でも良いから、「今後もビール飲もうかな」と思ってもらえればいいなと思っています。
ビールの美味しさを伝えるためのサーバーの役割
——スイングカランと現代の一般的なカランとの違いを教えてください。
カラン自体の違いでいうと、『弁があるかないか』が大きな違いです。 スイングカランは液を制止する弁がなくて、単なる金属同士のすり合わせでシールしています。 抵抗と極度の変化はビールにストレスを与えるので、昔からよく「樽から出た後、同じ径で注ぎ口までいくビールが最も美味しい」なんて言われています。 弁がなくて完全貫通式のスイングカランの方が、よりビールにストレスを与えない構造といえますね。
——なるほど!そうやって出てきたビールは、味わいも違うものですか。
味わいでいうと、個人的には『炭酸感』が違うと思っています。 スイングカランでは程よく液を暴れさせて揉みながら注ぐので、喉で炭酸をスッキリ感じるんですが、一般的なサーバーで注ぐと同じような喉越しは感じにくい傾向にあります。 一般的なサーバーで注ぐと、多くの場合は炭酸ガスが比較的閉じこもった状態なので、どちらかというとお腹でどしっと炭酸を感じるイメージですね。
あとは、注ぎ方のバリエーションをつくりやすいのはスイングカランの方です。例えば『一度注ぎ』と一口に言っても自分の中では何パターンか持っていて、それぞれ合うビールがある。そして「このビールならどれだろう」と試していきます。だから4銘柄あったら、4種類の一度注ぎがあるんですよ。 これはカランの形だけでなく流速も関係していて、少なくとも流速が遅いと変化をつけづらい。現代の飲食店のサーバーの多くでは難しいんです。
ただ、どちらのサーバーが良いかではなくて、そこに向いているサーバーを使えばいい。それぞれのサーバーの特徴を活かしながら、そのビールの良さを出していければ良いと思うんです。
——あくまでこういうお店を経営される目的は、設備や技術を紹介することではなく、美味しいビールを美味しいまま提供することに尽きるんですね。
もちろん。飲食店側がやってることをお客様に伝えたらつまんなくなっちゃうから、お客様に考えさせたらダメだと思うんです。目の前のビールを飲んで「あ、これ美味い」って思っていただければ、それ以外の要素はいらない。「やっぱりビールって美味しいね、また飲みたいな」って思っていただくのが大事なんです。
——改めて、スイングカランのどのような部分に魅力があると感じますか?
「突き詰められる」ところですね。昔だと「職人コック」とか言われたりしていたくらい、意外と難しいんです。自分は設備にこだわりを持っているからこそ、スイングカランで提供する「味」をしっかりと突き詰めたいと思っています。
プロの注ぎ手が伝授!缶ビールでの美味しい一度注ぎ
最後に、木村さんが缶ビールを飲む際に実践されている「缶ビールでの一度注ぎ風」を特別に教えて頂きました!せっかくなので、「ホッピンラガー」で実演して頂くことに。
ポイントは、次の3点です!
(1)グラスは濡らす
こうすることで綺麗な泡が完成します。
(2)注ぎ口を少し斜めに向ける
プルタブの真反対から注ぐと液が空気を含んでゴポゴポっとなりやすいため、少し斜めから液を注ぎ出します。
(3)グラスの壁面に当てて少し回転をかけながら、勢いよく注ぐ!
この回転とスピードが、一度注ぎの魅力である「爽やかな喉越し」をつくりだします。
回転とスピードが、一度注ぎの極意
この場合、グラスをあまり立てなくても、きめ細やかな泡が自然に完成します。
わかりやすく説明しながら実演して頂きました。完璧な泡!
注いで頂いたホッピンラガーを飲んでみると、香りと苦みが ”綺麗に” 立っていて、スイスイ飲みやすい印象でした!もう少し具体的に言うなら「要素が液中にこもらずに、真っ直ぐ爽やかに届く」という感じ。 是非皆さんも、お家飲みの際に試してみてくださいね!
編集後記
実は筆者がサッポロビールに入社したのも、スイングカランで飲む黒ラベルの美味しさに感動したことがきっかけでした。 ビールを決めるのは原料や中味だけではありません。これからも美味しく飲食店のビールを飲み続けるために、注ぎ方や設備について少しでも興味を持って頂けたら、嬉しく思います!
紹介したお店
BEER STAND MINATO(ビールスタンド ミナト)
アクセス:〒247-0056 神奈川県鎌倉市大船1-8-3天正ビル1F
JR/湘南モノレール 大船駅東口 より 徒歩3分
最新の営業スケジュールはこちら>>公式Instagram
サッポロビール株式会社
飯村 瑞季(Iimura Mizuki))
<略歴>
2022年東京農工大学大学院農学府応用生命化学専攻修士課程修了。
同年サッポロビール株式会社入社。
入社後は千葉工場パッケージング部に所属し、充填・包装工程の管理や技術開発に取り組む。
学生時代、「注ぎ分け」の魅力を提供するビアスタンドで勤務した経験から
ビールが持つパワーや奥深さを自らの言葉で発信したいと考え、記事執筆の社内副業に従事中。
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