クラフトビール入門講座
【缶ビールと瓶ビールって違う?同じ?】味や炭酸の量・賞味期限の違いについてご紹介
2024.07.12
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『瓶ビールは缶ビールよりも美味しく感じるよね』という声を耳にしたことはありませんか?
一方で、『飲み比べても同じだよ』『実は勘違いらしいよ』『いや缶の方が』という反対派も。 たしかに、容器によって中味の製法を変えているわけではありません。 たくさんのビールタンクを有する大手メーカーであっても、容器によって貯蔵タンクを使い分けることは一切ありません。
しかし、口に入るビールは「全く同じ」なのでしょうか。 違いを感じた人は、本当にただ勘違いしていただけなのでしょうか。
『中味は同じだよ』で一蹴されてしまいがちなこの話題。サッポロビール工場””パッケージング部””の筆者が、徹底解説します!
瓶ビールも缶ビールも中味は同じ
前述の通り、瓶ビールも缶ビールも中味は同じです。ブルワリーによって主義が異なる可能性がありますが、サッポロビールでは充填後の炭酸ガス量も容器による違いはありません。 ちなみに炭酸ガスや酸素の量は厳しく基準を設けており、細やかな品質管理の下、出荷されていきます。
また、『缶は金属分が溶け出す』という都市伝説もありますが、 飲料用に特殊な表面加工がされていますので、これは全くの間違いです。
つまり ”出荷される瞬間” は、それぞれの ”容器に入っている” ビールは「全く同じ」なのです。 では、出荷された後どうなるのか?容器から出て口に入るビールはどうなるのか?を考えていきましょう。
炭酸ガス量や賞味期限も全く同じ…それでも違いを感じるワケ
まず、「口に入るビールの違い」について考えてみましょう。
前述の通り、炭酸ガスの量や酸素の量は缶とびんで同じ基準を設けており、 容器や設備の特性は考慮しながらも、同水準に調整されています。 また、賞味期限も容器によらず全く同じです。サッポロビールでは2020年より、食品ロス削減の取組みとしてビールテイスト飲料は一律で12ヶ月の賞味期限を設けています。
参考サイト:食品ロス削減にむけてビールテイスト製品の賞味期限を延長|ニュースリリース
ではなぜ違いを感じる人がいるのか、それは以下2点の影響が大きいと言えます。
1. 炭酸ガスの抜け方で感じ方が変わる
国内大手の瓶ビールは多くの場合、卓上でグラスに注いでから飲まれます。一方で缶は手軽に持ち歩けるというメリットがあり、グラスを使わずに直接口を付けて飲まれる場合も多くあります。
一般的な注ぎ方の場合、グラスに当たった衝撃で炭酸ガスが抜けるため、比較的スイスイ飲めるビールになります。 ちなみに筆者は缶でも必ずグラスに注ぐ派閥の人間です。 缶から直接飲むこともたまにあり、炭酸のピリピリ感に少し驚きます。これはこれでイイ。
2. 温度で味の感じ方が変わる
こちらも、缶とびんでは飲まれる状況が違うことが影響すると考えられます。 瓶ビールの場合、飲食店の冷蔵庫から出され…お客様の卓へ運ばれ…まずは相手に注ぎ…「私は手酌で」「いやいや」なんてやり取りしている間に、みるみるうちに温度は上がっていきます。
一方で、缶ビールはギリギリまで冷蔵庫や氷水で冷やしていることが多く、びんに比べると飲むときの液温は平均的に低いと考えられます。 一般的に、冷えているほど味や香りを感じにくく、スッキリとした味わいになります。
冷蔵庫から出してすぐの缶ビールを、さらにグラスに注がず飲んだ場合、 夏向きのドライな味わいに近づき、瓶ビールで飲むときとはかなり異なってくるのです。
出荷された後、ビールの味は刻一刻と変化する
では次に、出荷後の缶ビールと瓶ビールでは違いが生まれるのか考えてみます。
ビールは製品として完成した後も、まるで生きているかのように味が「老化」していきます。 老化を引き起こす要因として代表的なのは、大麦由来の脂質が酸化されることで発生する物質です。 つまり、酸素が少なければ、出荷時の新鮮味がより長く保たれるのです。 一方で、大麦を含まないサワー類は、日時が経過しても味の変化は少ないと言われています。
参考サイト:「旨さ長持ち麦芽」~大麦育種からおいしさに挑戦~|サッポログループの研究トピックス
ビール製造では醸造・充填の全工程において、できるだけ酸素と触れさせないような工夫がされています。 ここで、缶とびんについて結論からお伝えすると、 『充填方法としてはびんの方が有利ではあるが、実際は差がない』 というのが正解です。
以下で、缶とびんを充填する際の「酸素の追い出し方」を比較しています。
1. ビール充填時の酸素の追い出し方
- びん:容器内を一度真空にしてから炭酸ガスを送り込み、ビールを充填します。
- 缶:アルミの変形を防ぐために真空にはせず、代わりに炭酸ガスで空気を押し出してから充填します。
2. 密封時の酸素の追い出し方
- びん:首の部分が細いことを利用して、密封直前にわざと噴きこぼすことで空気の部分を追い出します。
- 缶:炭酸ガスを吹付けてから蓋を取り付けます。これは、適度に噴きこぼすことが難しいことに加え、『二重巻締』という複雑な構造にビールが入り込んでしまうためです。
参考サイト:二重巻締|東洋製罐株式会社 技術情報
つまり、びんは効率的に酸素を追い出すことができますが、缶は容器特性上、それに代わる方法が必要となっています。 ただ、どのブルワリーも様々な技術の工夫で酸素低減策を講じており、決して『缶は極端に老化しやすい』ということはありません。 ビールの技術者は品質管理の一環として、数ヶ月以上保管したものを飲み比べることもありますが、実際缶とびんの差は感じられません。
最後に
ついついニッチな話にもなりましたが、最初の疑問に戻ってみましょう。
- 口に入るビールは「全く同じ」なのでしょうか。
- 違いを感じた人は、本当にただ錯覚していただけなのでしょうか。
結論づけると、
出荷時のビールは全く同じでも、酸化反応の進行具合・注ぎ方によって
口に入る頃のビールの味は異なっていきます。
また、ビールの温度や場所・気候によって、人が『美味しい』と感じるものは全く異なってきます。 これは勘違いというより、人間の脳による自然なコントロールです。
つまり、『缶とびんは違いを感じやすい』が最も正確な表現かもしれません! 皆さんもぜひ自分の気分や状況に合わせて、缶ビールと瓶ビールを使い分けてみてはいかがでしょうか?
サッポロビール株式会社
飯村 瑞季(Iimura Mizuki))
<略歴>
2022年東京農工大学大学院農学府応用生命化学専攻修士課程修了。
同年サッポロビール株式会社入社。
入社後は千葉工場パッケージング部に所属し、充填・包装工程の管理や技術開発に取り組む。
学生時代、「注ぎ分け」の魅力を提供するビアスタンドで勤務した経験から
ビールが持つパワーや奥深さを自らの言葉で発信したいと考え、記事執筆の社内副業に従事中。
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