ビアスタイル講座
ドイツ人が古くから愛するビール?ボックの特徴や飲み方を解説!
2023.10.31
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みなさんは、どんなビールが好きですか? すっきりしたビルスナーで喉を潤すのが好きな人、苦みの強いIPAや、フルーティなヘイジーIPAが好みの人、と様々でしょうが、麦芽の旨みを感じられる濃醇なビールはいかがでしょう。 ここでは、そんなリッチな気分を味わえるボックビールについて、紹介していきたいと思います。
1.ボックの概要
ボックはドイツ生まれのビアスタイルです。元々アインベックという街の名産でしたが、南部のバイエルンでも醸造されるようになり、17世紀には現在のスタイルが確立されたと言われています。 いくつかのサブスタイルがありますが、主に、
- 濃い液色のものが多い
- ボディは、ミディアムからフルと強め
- アルコール度数も高め
- ホップの苦味や香りは控え目 といった共通点が挙げられます。
2.ボックの特徴・魅力
ボックの魅力は何といっても、その濃醇な飲み口です。ドイツのビールといえば、ジャーマン・ピルスナーやヘレスといったラガー(下面発酵)だけでなく、エール(上面発酵)のアルトやケルシュも、低温貯蔵を取り入れることで比較的すっきりした風味を持ち味としている印象ですが、ボックは麦芽由来の甘み、うまみが支配的で、非常に飲みごたえがあります。 以下、サブスタイルごとに特徴を紹介します。
トラディッショナル・ボック
ミュンヘンのオリジナルスタイル。重厚な麦芽感やトースト、ナッツを思わせるフレーバーを感じられます。色は濃いブラウンからより暗め。アルコール度数は6~8%程度。
マイボック
マイはドイツ語で5月の意味。その名の通り、5月の春祭りのために、冬の熟成を経て造られます。麦芽由来の甘み、パンのようなアロマが特徴。色は春らしく明るくて、黄金色から明るい銅色。アルコール度数は6~8%程度。
ドッペルボック
ドッペルはドイツ語で2倍の意味。何かが2倍ということではなく、通常のボックよりアルコール度数やエキス分が高い、ということを表しています。 キリスト教で復活祭(イースター)前の準備期間である四旬節の断食中、液体の摂取は認められていたことから、修道士が栄養補給に用いたのがその由来です。色は銅色から濃いブラウン。アルコール度数は6.5~8%程度。
アイスボック
南ドイツのクルムバッハが発祥。元になるビールを凍らせて、水分を氷として分離することで、アルコール度数やエキス分をより高くして、濃醇な味わいに仕上げたもの。色は明るいブラウンから黒。アルコール度数は8.5~14(!)%程度。
その他、小麦を使用したヴァイツェンでも、アルコール度数が高く濃醇な味わいのものはヴァイツェンボックと呼ばれています。
3.ボックの歴史
北ドイツの銘品アインベッカーが、ミュンヘンでボックとなるまでの足跡を辿ってみます。
ルターも愛飲
ドイツの中央からやや北よりにアインベックという街があります。中世のドイツ北部ではビール醸造が盛んで、他国への輸出品としても重要な役割を果たしていました。特にこのアインベックのビールは評判が高く、街の名前から『アインベッカー』と呼ばれていたそのビールは、宗教改革で有名なマルティン・ルターもお気に入りで、『人類にとって最も美味しい飲み物はアインベッカーと呼ばれている』という言葉を残しているほどです。
ミュンヘンの憧れ
それほどのビールですから、ドイツ南部のバイエルン公国でも輸入して親しまれていました。バイエルンの首都はミュンヘンです。今ではドイツビールといえばミュンヘン、という印象が強いですが、当時ビールの品質は北ドイツと比べても高くなかったそうです。そのため、アインベッカーを始め他の街のビールを取り寄せていましたが、だんだんとその費用が重荷になります。そこで、地元で高品質のビールを造ることが出来れば、輸入費用を削減出来ると考えるようになりました。
諸侯の挑戦
15世紀ごろから、不正なビールを醸造させないために様々な取り組みが行われます。条例などで原料や値段を定めたり、定期的な品質検査を実施したりしました。 そして1516年、バイエルン候ヴィルヘルム4世によりビール純粋令が施行されます。ビールの原料を大麦・ホップ・水のみと定めたこの法律により、南ドイツのビールの品質は上がったと言われていますが、簡単に本家の味わいは再現できません。そこで、アインベッカーに“ハマッていた”ヴィルヘルム5世(ヴィルヘルム4世の孫)は、ついにアインベッカーをミュンヘンで造ることを思い立ちます。醸造所として、1589年に完成したホフブロイハウスを活用しますが、ここでもなかなか思うような結果が出ません。最終的に、その息子であるマキシミリアン1世がアインベックから醸造技師を連れてくることで、ようやく納得いく出来となりました。時に1614年。ビール純粋令から約100年、実に父子4代の治世が経過していました。
アインベッカーからボックへ
このようにミュンヘンで再生されたアインベッカーですが、本家からは変わった部分もあります。元々エール酵母(上面発酵)だったものを、15世紀にバイエルンで発見されたラガー酵母(下面発酵)に変更、長期熟成の手法を取り入れたりしましたが、何よりも変わったのはその呼び方です。バイエルンで飲まれていく中で、アインベッカーからボックへとその名を改めます。これには諸説ありますが、アインベッカーが訛ってボックになったという説が有力です。また、Bockがドイツ語で雄山羊の意味を持つことから、雄山羊の力強さとビールのボディの強さをかけて名付けたという説もあり、実際にアインガー『CELEBRATOR』やプランク『Heller Bock』のようにラベルに雄山羊を記している銘柄もあります。
アインガー『CELEBRATOR』のラベル 購入した時には、雄山羊のマスコットがボトルに掛けられていました。
4.ボックにまつわる逸話
前述の通りボックにはいくつかサブスタイルがありますが、その誕生に際して様々な逸話があります。
修行に最適?
修道士の栄養補給が由来、と紹介したドッペルボックですが、次のような話もあります。
断食の季節に、『同じ飲むなら水より美味しくて栄養があるものにしたいものだ』などと修道士同士で話をしながら、試行錯誤の末ビールの醸造に成功。まず、法王の許可を得ようと、代表が大きな樽を担いでアルプス越えに挑んだが、輸送時の振動や温度変化などでビールの状態は段々と悪化、ようやくバチカンへ到着したときには最悪の状態になっていた。『断食の間、これを飲もうと思いますがいかがでしょうか?』と問われた法王はビールを口にするなり、そのまずさに思わず吐き出し『よかろう!』と言った-
余りのまずさに、修行に相応しいと思ったんでしょうね。ビールは『液体のパン』として…、とはよく言われますが、こういうクスッと笑える話もビールらしくて好きです。
末尾は『-ator』
史実としてのドッペルボックは、ミュンヘンのパウラナー修道院が開発し、1780年に一般販売が開始されました。その時の銘柄が『Salvator』だったため、他の醸造所はそれにあやかってドッペルボックの末尾に『-ator』を付けるようになったと言われています(裁判所がパウラナー以外に『Salvator』の使用を認めなかったため、その代替策だった、という説もあります)。
失敗から生まれた?アイスボック
アイスボックはクルムバッハのライヘルブロイ醸造所が開発したと言われていますが、その由来にも逸話があります。 曰く、
冬の夜空の下、中身の入ったビール樽を置きっぱなしにしてしまう。外気にさらされたビールは凍り付いてしまい、これでは売り物にならないと仕方なく口にしてみると、氷となった水分が取り除かれた分、アルコール度数とエキス分が高まり、より濃醇な味わいのビールが出来上がっていた-
というものです。 真偽不明ですが、本当だったら『失敗は発明の母』といったところでしょうか。
5.おすすめのビール3選
ベアレン醸造所(岩手)『マイボック』
岩手で醸造される、春しか飲めないボック。外観は濃いめの黄金色。麦芽の甘いアロマが香り、口に含むとはちみつのような甘さやドライフルーツのような風味を感じます。まだ寒さの残る春の日に、仲間と語らいながら飲みたい一本。
シュパーテン(ドイツ)『Optimator』
1397年創業の老舗が造るドッペルボック。外観は濃い茶褐色。プルーンやレーズン、熟したフルーツのような風味。熟した醤油のような香りも感じられます。フルボディで、濃醇な甘みの余韻がハイアルコール感と相まってリッチな気分に。まさに液体のパン。由来からすると春先に飲むべきスタイルですが、秋から冬にかけて飲みたい味わいです。
シュナイダー(ドイツ)『アイスボック』
シュナイダーはヴァイスで有名な醸造所。同醸造所の『飲むメルセデス』こと『TAP6アヴェンティヌス』(ヴァイツェン・ドッペルボック)から造られています。アルコール度数は12%。外観は濃い茶色。ヴァイスを思わせるフェノールな香りと、プルーンや、レーズンなどドライフルーツのような濃醇な味わい。口の中には、熟した甘味とハイアルコールの暖かみが広がります。冬の夜、チョコレートなどを齧りながらちびちびと。
日本産のアイスボックはなかなか目にする機会はないのですが、小樽ビール(北海道)が年末のカウントダウンパーティ限定で提供したり、伊勢角屋麦酒(三重県)が昨年、クラウドファウンディングで『DIGNITY』を造ったりしています。興味のある方は、まめに情報収集することをお勧めします。
- ビール世界史紀行 ビール通のための15章
- もっと知りたい!ドイツビールの愉しみ
- ビアスタイル・ガイドライン2004
- 日本地ビール協会 ビアテイスター認定講習会 新カリキュラム・テキスト
- 日本地ビール協会 ビアジャッジ認定講習会 新カリキュラム・テキスト
- ペンネーム:長畑 勝則
- 初代びあけんマスターズ。初回1級を最高得点で合格。その後、びあけん初の2級/3級同時満点賞獲得。昼飲みが好きで、特にビアガーデンでビールを飲みながら読書をするのが至福の時。ビールのおかげで出会えた人達と、イベントなどで楽しく乾杯させてもらっています。座右の銘は『祭ある所に酒あり』。
- びあけん1級合格回数:7回
- 居住エリア:北海道札幌市
- 好きなビール:NORTHCOAST『OLD RASPUTIN』
- 好きなビアスタイル:ヘレス、ケルシュ
- 最近注目しているブルワリー: Streetlight Brewing。地元札幌のブルワリー。コラボも積極的に行っていて今後が楽しみです。
- 最近飲んで美味しかったビール:うちゅう『QUARK』,『KABUKI』。ほとんどスムージーの味わいですが、ビールのポテンシャルを改めて感じました。
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