クラフトビール入門講座
ビール業界に欠かせない「ケグ(樽)」の世界~賞味期限・杯数などの基礎知識~

ビール業界に欠かせない「ケグ(樽)」の世界~賞味期限・杯数などの基礎知識~

ビールを多くの人に楽しんでもらうために欠かせない「ケグ」。 耳馴染みのない方もいらっしゃるかもしれませんが、サーバーに繋がれているビール樽をイメージして頂ければと思います。

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飲食店の隅にはケグが積んで置かれているのをよく見かけますが、そういった店での勤務経験がないと触る機会もありませんよね。

意外と知らないことが多いケグの基礎知識について、サッポロビール工場パッケージング部の筆者が解説します!

【ビール樽の種類】形・素材・リターナブル性

ウイスキー樽のような、横置きの木樽を「カスク」、 そして、現代の飲食店で見かける縦型・寸胴のものを「ケグ」といいます。

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カスク

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ケグ

1960年代のイギリスでは、大手メーカーのケグ・ビアが広く流通し、絶大な力を持ち始めました。しかし、伝統的なカスク・ビアを守るための組織である**CAMRA(Campaign for Real Ale)**の活動がヨーロッパのみに留まらず北米にも影響を与えたことで、カスクとケグが共存できる世界になりました。CAMRAが始めたカスク・ビアのイベントは、今でもロンドンで定期的に開催されています。

Great British Beer Festival

カスク・ビアの最大の特徴は「樽詰め後も発酵が続く」こと。ガス付け(カーボネーション)やろ過もしないため、酵母が持つ力がそのまま反映される野生的なビールとなります。発酵の進み具合が味わいを大きく左右するため、多くの場合は飲食店の中で提供タイミングを見計らう必要がある、職人気質なビールなのです。

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一方、大手メーカーが取り入れたケグ・ビアの特徴は、炭酸ガスを使用することにより安定した品質で提供できること。ガスを注入する経路とビールが出ていく経路があり、ビールとほぼ同じガス圧で押し出します。ケグの多くは非常に丈夫であるほか、縦に積めるため省スペースで保管できるというメリットもあります。

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素材・リターナブル性

カスクの場合は木製ですが、ケグの素材には大きく2種類存在します。 国内で最も多いのはステンレス製で、こちらはびんと同様に工場に返却されて再利用されます。前述の通り丈夫であるほか、ブルワリーとしては新樽購入コストを抑えることができます。

また、プラスチック製のケグも近年では増えてきており、こちらは缶と同様に使い捨て容器です。回収・洗浄が不要なことに加え、軽量であることが大きなメリットです。飲食店や酒屋での廃棄の手間など、広く普及させていくには課題もありますが、ブルワリーでの脱炭素化や省力化に向けては有用な容器として注目されています。

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プラスチック製のケグ

1つのケグはどれくらいで消費されるのか?賞味期限は?

サッポロビールのケグは、10L・20Lの2種類があります。 中ジョッキ1杯を400 mLとすると、10Lでは25杯、20Lでは50杯分の容量となります。 40人が入れる飲食店であれば、全員が1~2杯ずつ飲む間に20Lケグはすぐに消費されるわけですね。 大手メーカー各社はそれぞれ独自のケグを使用しており、小さいものでは7Lのケグも販売されています。

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ちなみに、銀座ライオン七丁目店などの大きなビアホールでは、ケグでは全然追いつきません。 そのような店では、200Lタンク(500杯分!)を店内に置き、サーバーを繋いでいます。 各飲食店のビール提供数に合ったサイズを仕入れれば、ケグやタンクは程よいペースで回転していきます。

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サッポロビールのビールテイスト飲料の賞味期限は製造から12ヶ月ですが、 仕入れてから消費するまでの期間が短いケグには賞味期限の表示がなく、「製造年月旬」のみをわかりやすく表示しています。飲食店の方々は製造年月旬を見て、順番に使用していく場合が多いようです。

使い終わったケグはどのように再利用されるのか?

ステンレス製のケグは空になると、飲食店から酒屋さんに戻され、最終的に工場に返されます。 ケグのラインは洗浄・殺菌工程と製造工程が一連の流れになっており、1つの工場からは1日で約2~3万本ものケグが生まれ変わって出荷されていきます。

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ケグ再利用に必要なこと

1.外観検査
ケグが再利用できる状態かを判定します。破損や酷い汚れがあるものや、前回のメンテナンスから長期間経過しているものは、再メンテナンスあるいは廃棄に回されます。

2.外内面洗浄・殺菌
中に残ったビールを抜きつつ、大規模な設備で念入りに洗浄・加熱殺菌します。 また、製造年月旬の印字も完全に消され、次の製品に生まれ変わるために白紙に戻されます。

3.漏れ検査
目視で判断できないレベルの穴やパッキンの破損を検知します。ほんの少しでもビール漏れや内圧の低下があるとカビの原因になりかねないほか、サーバーから正常に注ぎ出せないトラブルが発生します。

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上記3点はどれかが抜けてしまえば、「この樽生ビール大丈夫?」と不安になってしまいます。 丁寧な工程管理があってこそ、飲食店で提供されるビールを美味しく安全に飲むことができるのですね。

最後に

何気なく飲んでいる飲食店のビール。 きちんとビールを守って届けてくれる「ケグ」は、全国を旅しながら何年にも渡って生まれ変わります。 そして飲食店がこの世に存在する限り、ケグは素晴らしいビール体験を提供し続け、容器としても進化を遂げていきます。 頭の片隅で、ビールとケグのこれからを楽しみにしていてくださいね!

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サッポロビール株式会社

飯村 瑞季(Iimura Mizuki))

<略歴>

2022年東京農工大学大学院農学府応用生命化学専攻修士課程修了。
同年サッポロビール株式会社入社。
入社後は千葉工場パッケージング部に所属し、充填・包装工程の管理や技術開発に取り組む。
学生時代、「注ぎ分け」の魅力を提供するビアスタンドで勤務した経験から ビールが持つパワーや奥深さを自らの言葉で発信したいと考え、記事執筆の社内副業に従事中。

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