STORY このビールに込められた「ほんとう」のストーリー

この人生ストーリーの主人公

観た後の余韻を含めて、映画体験だと思う

観た後の余韻を含めて、映画体験だと思う

HOPPIN’ GARAGE新作ビール「映画の余韻」の人生ストーリーの主人公は、移動映画館「キノ・イグルー」代表の有坂 塁さん。旅する様に全国各地を舞台に、世界中から選んだ作品を上映しています。映画をこよなく愛することになった人生の転機や、「映画の余韻」の特徴について伺うとともに、特に印象的だった移動映画館や「映画の余韻」を楽しみながら見たい映画も選んでいただきました。

撮影協力:恵比寿ガーデンシネマ

10代の“積極的な映画嫌い”は 映画に会うための時間だった

——小さい頃から映画がお好きだったんですか?

有坂さん  いいえ。どちらかというと、“積極的に”嫌いでしたね。7歳の時に『グーニーズ』を観たらとても面白かったので、親に「もう一度観たい」とお願いしたのですが、同じものよりも当時流行っていた『E.T.』を観ようということになって。『グーニーズ』が観たい僕としては、『E.T.』が退屈に思えました。見た目もちょっと怖いし(笑)。映画を観ている時間があるならサッカーの練習をしていたかったので、それ以降は観なくなりましたね。

——それほどサッカーに夢中になっていた?

有坂さん 小学校低学年から地元のサッカークラブに入り、高学年の時にちょっと中断しましたが、再び中学、高校とサッカー部に入り、将来はプロのサッカー選手になるのが夢でした。高校生のときは、双子の兄とともに、のちの某Jリーグクラブに高校生枠で入団が決まりかけたこともありましたね。

——双子のお兄様がいらっしゃるんですね。
有坂さん 一卵性の双子です。双子って一緒にいると否が応でも目立ちますよね。小さい頃は、周りの人に「似ている」と言われたり、注目されたりすることが心底嫌でした。

——双子にしか、わからない感覚があるんですね。いつから、映画好きに?

有坂さん 19歳の時に、当時付き合っていた彼女に無理矢理に誘われて行った『クール・ランニング』を観たのがきっかけですね。高校生の終わりに怪我をして1年間のリハビリの後に、サッカーの専門学校に通いながらプロを目指していた頃です。同時にプロの壁も感じていて、今後のことをゆっくり考えようと思っていました。そういう状況で南国ジャマイカの男子チームがボブスレーで世界大会を目指す『クール・ランニング』は、本当に人生が変わるほどの衝撃を受けました。今までの映画嫌いは、ここで映画に出会うための時間だったというぐらい。

——その映画にのめり込んでしまった?

有坂さん 実は作品が始まる前から、映画館にいるだけでわくわくしていたんです。双子として常に誰かの視線を浴びることが嫌だった僕にとって、誰にも見られない暗い空間は心地良く感じました。だから次の日からは、映画館に通い詰めですね。

——そこから、映画の道へと進んだのですか。

有坂さん 専門学校を卒業する時にプロテストを受けましたが、良い返事はもらえませんでした。それまでプロのサッカー選手になるために、自分の楽しみを全て抑えて頑張ってきたので、挫折といえば挫折ですよね。けれど、その頃はすでに映画にもはまっていて、練習用のバッグにフランスの映画監督のジャン=リュック・ゴダールについての分厚い本を入れて、食事の後は仲間と雑談もせずに読んでいたくらい(笑)。すでに僕の中で“映画”の存在が大きくなっていたのかもしれません。それで、卒業後は新宿のTSUTAYAでバイトを始めて……。映画をジャンル問わず観るようになった頃ですね。

きっとこの先も想像以上のことは起こる そう思えた「キノ・イグルー」の名付け親

——「キノ・イグルー」は、28歳の頃に立ち上げていますね。

有坂さん ええ。当時のバイト仲間は、映画好きや監督志望の人も多くて刺激がありました。その仲間たちと団体をつくって上映活動を始めました。3年間ほど続いていましたが、方向性の違いがあって結局僕は抜けてしまった。その後に、僕の中で「シネクラブ(※1)」をやりたいと思うようになって、実際に声をかけてくれた人が現れたら、次にやるならまずは人間的に合う人じゃないと続かないと思って、中学時代の同級生だった渡辺順也に声をかけたのが、「キノ・イグルー」の始まりです。 

——名付け親は、フィンランドの映画監督であるアキ・カウリスマキさんだそうですね。

有坂さん はい。僕は上映会の機会をいただいたからには、こうした活動を単発で終わらせるつもりはなかった。何か面白いコンセプトを見つけて継続すれば、何か楽しい未来に繋がるっていうイメージが自分の中にありました。そうなると屋号って、とても重要ですよね。でも自分で名前を付けるのは、ちょっと恥ずかしくて(笑)。だったら尊敬する誰かに付けて欲しいと思って、親や先輩なども考えたのですが、もっと思い切ってみたいと。「それなら、尊敬するカウリスマキしかいないでしょ」となりました。彼は親日家だし、インタビューを読んだ印象のままの人なら、きっと僕たちの思いを分かってくれるに違いないと(笑)。そこで名前を付けて欲しいと、熱い内容の手紙を書いたんです。

——そこへ返事がきたと。

有坂さん ええ。上映会が2003年の5月と決まっていたので、それに間に合わせるために図々しくも「来年の1月の終わりまでにお願いします」と期限まで付けて手紙を送りました。送ってからは、心では信じていても、もしかしたら無理かなとも思うことも……。彼は日本の焼酎が好きだから、「焼酎って付けられたらどうしようとか」とか(笑)。いろいろと揺れ動くこともありましたが、信じて待とうと。そうしたら、1月の最後の日に、彼の作品を扱っているプロデューサーから、「カウリスマキからメールが来たので転送します」というメールが来ました。

——そこに「キノ・イグルー」という名前が書かれていたんですね。

有坂さん そうです。フィンランド語で「キノ・イグルー」は、「かまくら映画館」の意味。実はこれ、カウリスマキさんが若かりし頃、シネクラブをやっていた時に付けていた名前だったようです。そのシネクラブで、チャップリンなどの作品を上映しているうちに、自分も撮った映画で人と関わりたいと思ったのが監督になったきっかけになった。だから彼のキャリアの中でも、シネクラブはとても重要なもの。その名前を意図せず僕らが継いでしまった。名もない日本人の僕らに、自分にとってのスーパースターが想像を超える形で応えてくれた。だから僕らも、その意味はしっかり考えようと思いながら今も続けています。今後、何がどう変わっていくのかわからないけれど、多分、想像以上のことは起こる。僕はそう信じています。でも起こるためには、何か小さなことにきちんと向き合って、積み重ねないと起こらない。そのことをカウリスマキさんが教えてくれたと思っています。

——「キノ・イグルー」は、今年(2023年)で20周年を迎えたそうですね。

有坂さん はい。当初はシネクラブをやりたいと思っていましたが、「うちでも上映会をできないか」と、いろいろな方に声を掛けていただいて、移動映画館という形になって20年が経ちました。僕ら1回も営業をしたことがありません。ひたすら会場のオーナーに声をかけてもらうスタンスを貫いています。それは「この場所でしかできない映画体験をつくろう」という思いが会場のオーナーにないと、いいものができないと考えているからです。たまにこちらから声を掛けたくなる場所もありますが、ぐっとがまんしています(笑)。

映画を見終わった後の “余韻”にフォーカスしたかった

——有坂さんはビール好きでも知られています。HOPPIN’ GARAGEから話が来た時は、どう思いましたか。

有坂さん 最初は信じられないし、人生ストーリーでビールをつくるというのが、ちょっと理解できませんでしたね(笑)。それくらい自分の中でビールづくりは縁遠いもの。ただ、僕らは以前から恵比寿ガーデンプレイス(※2)で「ピクニックシネマ」という移動映画館を開催していたので、やはりサッポロビールさんとは縁があるのかなと思ったりもして(笑)。うれしい驚きだったし、すばらしい機会を与えてもらいました。

——「映画の余韻」は、どのようなコンセプトから誕生したのでしょうか。

有坂さん キノ・イグルーをやってきて感じることは、「映画とは余韻がとても残るもの」ということ。その余韻の時間を含めて、映画体験だと思っています。僕は映画を観たら必ずパンフレットを買います。映画を見終わって、どこかのカフェに入って、映画の余韻に包まれながらパンフレットを読む。余韻があるから、情報もすごく入りやすいし、この時間が愛おしい。映画を観ながらビールを飲む人も多いはずですが、今回は余韻の方にフォーカスしてみました。だって、余韻を楽しむための特別なビールがあるって素敵でしょ?

フィンランドのお菓子に使われるリコリスが隠し味

——ビールの味や特徴でこだわったポイントはありますか。

有坂さん ビールの液色はダークトーンの方が映画館のイメージに近い気がしました。後は、映画の余韻とともにゆっくり味わって飲んでもらいたいので、アルコール度数は少し高めにしています。そして、HOPPIN’ GARAGEのブルワーさんのアイデアで、カウリスマキさんの母国であるフィンランドで昔から愛される飴「サルミアッキ」に使用されているリコリス(甘草)を隠し味にして、爽やかな後味に仕上げています。「サルミアッキ」は見た目が真っ黒で、少々独特な味わいです。「映画の余韻」では絶妙に効かせることで、お菓子ほど強烈な印象というよりも、ほんのりと良い香りが漂う程度になっていますね。

——完成したビールの出来映えは?

有坂さん 想像以上でした。ただただ感動です。皆さんにもぜひ味わって欲しいですし、映画を観た後に特別なおいしいビールが待っていると、余韻もさらに深く楽しんでいただけるのではないかと思っています。

映画の良さは自分が知らない自分を引き出して、世界を広げてくれる点です。最初は興味がない映画でも、観ると好きになることがある。それは新しい自分に出会わせてくれる瞬間でもあります。皆さんにも、もっと多彩な映画に出会って欲しいですね。

※1:シネクラブとは、特定の関心のあるジャンルなどを上映する映画的活動。 ※2:恵比寿ガーデンプレイスは、サッポロビール工場跡地にある複合施設。

有坂 塁さんがこれまでで印象に残っている移動映画館

◎恵比寿ガーデンプレイス「ピクニックシネマ」

(有坂さんコメント)
恵比寿ガーデンプレイスの中央にある大屋根の下に人工芝を敷いて、好きな場所に座って大型スクリーンから流れる映画をピクニック感覚で観てもらうイベントです。2023年は新型コロナウイルスの影響で4年ぶりに開催されました。時には場所を譲り合いながらレジャーシートを敷いて、1000人ほどが和気あいあいと同じ映画を観ている風景は、ほかのイベントとはまた違う幸福感があります。

◎層雲峡温泉「氷の映画館」

(有坂さんコメント)
北海道上川郡上川町にある層雲峡温泉で開催された「氷祭り」で、「氷の映画館」をつくって上映会を開催しました。壁も屋根もすべて氷。前の方の席は椅子も氷でできています。始まる前に僕が、「マイナス13度の中で映画を観る機会は、多分一生に一度だと思うので積極的に楽しみましょう」とあいさつしたら、皆さんがわーっと盛り上がってくれました。上手にコミュニケーションが醸成できると、こうも一体となって笑顔で映画を観てもらえるんだと経験できたイベントでした。

◎東京国立博物館「博物館で野外シネマ」

(有坂さんコメント)
「キノ・イグルー」で今までで一番規模が大きい上映会は、東京国立博物館の「博物館で野外シネマ」です。担当の方が若い世代にも来てもらえる様なイベントをしたいということで、お声を掛けていただきました。最初は野外とは決まっていませんでしたが、こちらから建物が美しく映る池のある庭を利用したいと提案しました。担当者と「千人超えたらどうします?」なんて話していたら、なんと当日は約4500人もの人が来てくれたんです。野外シネマはその後も続き、来場者も増えてあるときは約6500人にもなりました。

有坂 塁さんが『映画の余韻』を楽しみながら観たい映画Best3

「どんな映画も必ず良い点はある」という有坂さん。そんな映画愛に溢れた有坂さんが、特に余韻がすばらしかった映画3本を選んでくれました。有坂さんのコメントとともにご紹介します。


(1)何気ない日常がじわじわ沁みてくる作品
パターソン

パターソン
Blu-ray&DVD発売中
発売元:バップ
©️2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.

主人公はアメリカ・ニュージャージー州のパターソンに住む、バス運転手のパターソン。詩人でもある彼の単調な日常を描いているのですが、その何気ない毎日の大切さが観ているこちらに伝わってくる映画です。分かりやすい起承転結やカタルシスはありませんが、物語が終わって欲しくないと思えるような独特な余韻があります。ちなみに僕は、見終わって次の用事をパスしてひとりバーに行きました。(談)


(2)「本当に良い映画を観た」と思える一本
ニュー・シネマ・パラダイス

ニュー・シネマ・パラダイス
好評配信中
©1989 CristaldiFilm

不朽の名作として、多くの人が観たことがある作品ではないしょうか。映画監督・サルヴァトーレが、ある人の訃報を聞かされて、子ども時代の日々を回想する物語。この作品は、映画通としてちょっととんがっていた頃の僕に、「どの映画も等しくすばらしい」と教えてくれました。ラストシーンを観ると、自分が昔観た映画のことを思い出して、より一層余韻のひとときを大事にしたくなります。(談)


(3) ヤスミン監督の遺作であり最高傑作である
タレンタイム~優しい歌

©Primeworks Studios Sdn Bhd
監督・脚本:ヤスミン・アフマド
撮影:キョン・ロウ
音楽:ピート・テオ
出演:パメラ・チョン、マヘシュ・ジュガル・キショールほか
原題:Talentime|2009|マレーシア|カラー|115分|マレー語・タミル語・英語・広東語・北京語
配給:ムヴィオラ
「シアター・ムヴィオラ」にてオンライン配信中!
URL:http://moviola.jp/theatermoviola/

2009年のマレーシア映画で、ある高校で開かれる音楽コンクール「タレンタイム」に出場する学生たちを描いた作品です。多民族国家であるマレーシアが抱える葛藤や家庭の事情などが絡み合うストーリーは、こちらにも様々な感情が込み上げてきて、深い感動を与えてくれます。大好きなヤスミン・アフマド監督の残念ながら遺作となってしまった作品。ぜひ、大切な人と観て欲しいですね。(談)



『ホッピンおじさんのあとがき』

有坂さんのお話が面白くて、ついつい取材時間をオーバーして聞き入ってしまいました。世界には多種多様な映画があり、その一つひとつに心に響く何かが隠されているのではないでしょうか。みなさんも映画の余韻を楽しめますように、乾杯!

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