STORY このビールに込められた「ほんとう」のストーリー

この人生ストーリーの主人公

「表現が考えを追い越す」蟻鱒鳶ルを建築する三田のガウディの人生ストーリー

「表現が考えを追い越す」蟻鱒鳶ルを建築する三田のガウディの人生ストーリー

今回発売される「蟻鱒鳶ール」(アリマストンビール)は、東京・三田の地で17年以上もかけて自宅をセルフビルドしている建築家・岡啓輔さんとともに開発したビールです。

岡さんが手がけている建物の名前は「蟻鱒鳶ル」(アリマストンビル)。完成予定は2025年ごろで、2005年に着工して以来、セルフビルドで建築を着々と進めてきました。コンクリートから装飾に至る細部まで、岡さんの思いがたくさん込められています。その独創性が話題を呼び、遠方からはるばる見学に来る方もいらっしゃるそう……!

「蟻鱒鳶ール」は、建築の常識にとらわれない岡さんからインスピレーションを得て、サッポロビールとして初めてラガー酵母をエール並みの高温で発酵させる製法に挑戦しました。口に入れた瞬間、高温発酵が生み出す深いコクと鮮烈な苦味が広がり、ラガービール特有のキレが、飽きの来ないドライなフィニッシュをもたらします。

ものづくりの悦びがたっぷり詰まった「蟻鱒鳶ール」。ビール完成までのお話を、岡さんに伺いました。

蟻鱒鳶ル探訪~三田にあるセルフビルドの建築、ベールに包まれた内部を探る~

都営浅草線・三田駅から徒歩約7分。開けた景色が美しい聖坂をのぼる途中に、何やら白いシートで覆われている建設中の建物が……。

玄関に特徴的な文字が書かれた郵便ポストを発見! どうやらここが「蟻鱒鳶ル」のようです。

「こんにちは」と扉を開けてひょっこり顔を出したのは、建築家の岡啓輔さん。今回は、岡さんが特別に中を案内してくださいました。

蟻鱒鳶ルは鉄筋コンクリート造で、そのコンクリートは岡さんによる手づくりです。コンクリートの耐用年数が通常50年ほどとされるなか、岡さんがつくるコンクリートはなんと「200年も持つ」と専門家から太鼓判を押されているのだとか。

「日本のコンクリートは、先進国の中でも寿命が短い。産業革命の中で、そういうものとしてつくられてきたんです。でも、僕は蟻鱒鳶ルを後世にまで伝わる建物にしたかったから、コンクリートの質を徹底的に追求しました。このコンクリートはガラス質がよく生成されていて、水を吸いづらいんです。二酸化炭素が入っていく余地もないから中性化せずに劣化しない。一般的なコンクリートは、セメントに対する水の質量が60%近いのですが、これは37%ほどなんですよ」

コンクリートをはじめとする、並々ならぬこだわりが随所から感じられ、絶賛建設途中の様子に胸が高まります。

1Fは玄関で2Fは寝室、そして3Fはリビングに、4Fはお風呂と屋上になる予定だそう。建設中の様子を見る取材チームには想像もつきませんが、岡さんの頭の中には完成後の「絵」が浮かんでいるようでした。

いったい、どのような空間になるのか……ワクワクが止まりません。

蟻鱒鳶ルには、壁や天井などにユニークな装飾がたくさん見受けられます。

「2005年の着工以降、“装飾”が大切だと年々思うようになっていますね。だから上の階にいく方が装飾が多くなっているんです。装飾は、職人が思いを込めて施すもの。たとえば小学校をつくっているとしたら、そこで育つ小学生がのびのびと暮らせますようにという願いを込めて、職人がその場で何か可愛らしい装飾を入れることがあります。そういうふうに、職人たちがつくっている最中に手で生み出すものが装飾なんです」

この天井は、なんと建設途中に食べたお弁当やお惣菜のパックで形取ったものだそう! 「建築中の記憶を宿らせたいと思って」と、岡さん。

こちらは建築をお手伝いしているスタッフの方に恋人ができた際につけられた装飾だそうです(笑)。

つくっている最中のできごとやアイデアが、そのまま建築に反映されていく。案内をしてくれる岡さんは、終始とても楽しそうでした。

さてさて、こんなにも岡さんの思いがたくさん詰まった蟻鱒鳶ル。一体どのような経緯で、どのような思いとともにつくられた建物なのでしょうか?

岡さんに、建築への思いや、今回のビールづくりのお話など、くわしいお話を聞いてみましょう。

建築家・岡啓輔のまなざし ~建築に出会い、新しい世界をつくる人たちに感動した~

── 改めて今日はよろしくお願いします! まずは、岡さんと建築の出会いについて教えてください。 

岡さん 中学生の頃、決められた勉強をしなくちゃいけない学校がつまらなくて、白紙で答案をわざと出すような子になっていたんです。それでも勉強はできたほうだったので、学区も成績も関係のない有明高専に進学。そこで建築と出会いました。

それまで夢や希望があったわけではなかったんですが、建築に出会い「これは楽しい!」と思って。学校にいる5年間はかなり勉強しましたね。

── 建築のどういうところを「楽しい」と感じたのでしょうか。

岡さん 「新しい世界をつくっている人たちがたくさんいる!」という感覚に興奮しましたね。

最初の頃は、建築をがんばっているデザイナーはジャンルを問わず全員好きでした。でも、あるときを境に「そんな態度じゃ何もつくれないな」と思うようになって。全方位に広がっていたベクトルを絞り、自分の方向性を決めなきゃいけないと思いました。

── 岡さんが決めた方向性とは何だったんでしょう?

岡さん 社会人になって、建築家の石山修武さんに可愛がっていただいていたのですが、石山さんはずっと「建築家には3タイプの人間がいる」とおっしゃっていたんです。

「頭で端の端まで考えるタイプ」と、「頭よりも手で生み出す感覚タイプ」。あとは、その間のタイプ。

「岡は感覚タイプだ」と言われたんですよ。頭よりも感覚でつくった方がいいと。僕は綿密に考えて行動するタイプだと思っていたので、「端から端まで考えたいんだけどな……」と思いながらも、石山さんが言うんだから、感覚的な建築に取り組んだ方がいいのかもしれない、と思うようになりましたね。

── 「考える派」から「感覚派」へ。岡さんは舞踏を習っていて、そこからも大きな影響を受けていると伺いました。

岡さん そうですね。23歳のときに高山建築学校に通っていて、校長であり僕が尊敬する師匠でもある倉田康男先生から「岡は考えすぎだから、しばらくのあいだ建築をやるな」と建築禁止令を出された期間があって、その時期に縁あってはじめたのが舞踏でした。

── 舞踏からは、具体的にはどういうことを学んだんですか?

岡さん 「表現が考えを追い抜くこと」の重要さですね。

踊りの師匠にも、「岡は考えすぎだ」とひたすら言われ続けました。「お前が考えることなんて、観客から見たら一目瞭然だ」と。考えはすぐに見抜かれるから、考える前に感性に任せて表現したり、体が自然に動いたりする方がよっぽど人々を感動させられると言われて。

その時に、「ああ、建築にも通ずる話だなあ」と思いました。

── と言いますと?

岡さん 田舎から東京に出てきたとき、都会の建築を見て「生き生きしてないな」と感じたんです。製図板で書いた建築がそのまま建っているような、そんな印象を受けました。

建築というものは、本当にたくさんの方が関わってつくるのに、図面だけが建築家から現場作業員に送られてきて、とにかく言われた通りにつくります、みたいな関係が現代建築にはあまりにも多くて。考える人とつくる人の距離が遠いから、つくる過程でなんだかつまらないものになるんだと思いました。

つくる中で生まれるたくさんの出来事を組み込むことが、建築が生き生きするためには必要だと思ったんです。それは舞踏の「表現が考えを追い越す」という発想に近いと思いました。

それに気づいたとき、「一から自分でつくるしかないんだ」と思い、蟻鱒鳶ルをつくる覚悟ができましたね。

── 蟻鱒鳶ルにおいても、感覚をとても大切にしているんですね。

岡さん はい。それはつまり、「楽しんでつくる」ということだと思うんですよ。

倉田先生が、「建築は人類の一大事業である。なのに、その事業を何の悦びもなくやっていてどうするんだ」といったことを本に書いていて。その通りだと思います。

倉田先生は、「よろこび」と書くときに、いつも悦楽の「悦」を書いていました。頭だけがうれしいんじゃなくて、もっと全身からうれしむ。

ものづくりっていうものは本来、悦びのある作業のはず。そうなっていないんだとすれば、どこかで間違っているんです。

── 先ほど建物を案内していただく中で、岡さんが本当に楽しそうに紹介しているのが印象的でした。

岡さん ありがとうございます。ものづくりで一番うれしいのは、既存の常識を覆せたとき。「あれ、こういうやり方もあるんじゃない?」という発見ができたときに悦びを感じますね。それを、蟻鱒鳶ルに関わってくれている仲間一人ひとりが見つけられるといいなと思っています。

── サッポロビールからHOPPIN’ GARAGEのお話がきたときは、つくりたいビールの構想があったのでしょうか。

岡さん まずサッポロビールの人たちには、「会社ではなかなかできなかった、やってみたかったことがあればやってください」と言いました。

そのあとに、記憶に残っているビールの話をしていて、昔ロンドンで飲んだ常温のビールを思い出したんです。あれは本当においしくってね……。日本と全然志向が違って、味わうようにゆっくりと飲むビール。

それを語っていたら、サッポロビールの方が「常温のビールってつくるのが難しいんです」と言っていたので「挑戦してみてくださいよ〜」と言ったら、「いい機会だからチャレンジしてみたいかも」みたいな感じになってきて。結果的に、時間が経過して常温になってもおいしく飲める高温発酵のビールをつくっていただきました。

── サッポロビールにとっても、かなり挑戦的なことでした。

岡さん はい。でも、醸造責任者の方がすごく楽しかった、新しい製法を試行錯誤できてよかったって言ってくださいましたね。

── まさに、蟻鱒鳶ルと共通しているところがありますね。
── パッケージには、新井英樹さんの漫画『せかい!! ―岡啓輔の200年―』からの一コマを使用しています。

岡さん 新井さんは楽しい方なので、そのアイデアを聞いたとき、すごくいいなと思いました。実際のパッケージは、パソコン上で見ていたときよりも遥かにすばらしくって。単管が組まれている工事現場の絵が、アルミの素地とぴったり合っていてうれしいです。

── 「蟻鱒鳶ール」というネーミングは、最初から決まっていたのでしょうか?

岡さん 僕の頭の中で0.1秒で出るようなアイデアですよね。名前を聞かれた瞬間に「蟻鱒鳶ールがいいです!」と言って、ほかのアイデアは出さなかったです(笑)。サッポロビールさんも、「それしかないでしょう」と言ってくださって、即決でした。

── それでは最後に、このビールをどんな人に楽しんでもらいたいか、教えてください。

岡さん 大勢で「乾杯!」をするビールではないと思います。ちょっとしんみりと飲むイメージですかね。

── それこそ、ものづくりの悦びを噛み締めながら……。

岡さん そうですね。そんなシーンで飲んでいただけたらうれしいです。

あとがき

たのしそうに、愛おしそうに自分がつくったものについて話す岡さん。ものづくりをすることで、自分自身が救われる──。そんなものづくりをしたあとに、「蟻鱒鳶ール」をくいっと一杯。じっくりと、噛み締めて味わってほしいです。

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