リスボンの坂道


コロナ禍がはびこる中、皆様どうお過ごしでしょうか。
このビールのきっかけは、世界がこんなになる直前に行ったポルトガル。
そこで出会ったあるお酒とその時の思い出を詰め込みたい!とお願いして作ってもらった、バチバチにたいへん個人的なビールです。

私は、唯一の趣味といっていいほどには歴史や民俗、風土などをひっくるめて異邦の地の食文化を見つめる事が好きで、暇を作って色々な土地に旅行をしていました。
今回の企画を応募する際も、頭をよぎったのは前年に行ったポルトガル。
その中でも「あの陽射しと熱風とともにジンニャ飲みたい」という思いでした。

ジンジーニャ(Ginjinha)通称ジンニャは、ジンニャと呼ばれるサワーチェリー(まんまですね!)と砂糖をアルコールに漬け込んで作る、ポルトガルのローカルリキュールです。味はだいぶ違いますが、立ち位置的には日本の梅酒のような、家庭でも作る馴染みのあるお酒です。

出会いは旅半ば、ある食堂にて。
どれもこれもすっごく美味しい!しかし料理ひとつのポーションが本当に多く食べすぎて息も絶え絶えになってしまっていた時、女将がサービスよとウインクしながら出してくれたのが、このジンニャ。
アルコールは18度前後となかなかに高く甘いため、こんな胃になんて仕打ちを…しかし好意は受け取らなければ…と思ったのですが、くいっと一杯やると、内臓がよーしがんばってやるか、とばかりに動き出し、なんかこのまま行けるかも!と錯覚を起こすばかりに元気になってきたではありませんか。
あとから知ったのですが、実は街のあちこちにこのジンニャが立ち飲みできるスタンドがあり、むくつけき男性たち(と女性たち)が一杯やって仕事に赴く、といった元気チャージ的役割が浸透しているようでした。

そうと知ってからは、やれあっちのスタンドこっちのスタンド、チョコカップで飲むの飲まないの、ジンニャ果実の有無…坂だらけの街を攻略しながらあちこちで飲み比べをしたりと、旅の楽しみを増やすことができました。
今回サッポロビールさんにお願いしたのは、ジンニャなんだけど、ビールとのコラボでこそ輝くあの味、あのパワー。
重たいと思いきやするするいってしまった、あの体験を落とし込んで!と無理難題を叩きつけました。
世界的な疫病の流行で、今後いつ気ままな旅に出られるか検討もつきませんが、突き刺す陽射し、乾いた熱風とひいひい言いながら登った坂道、見下ろした街並み、美味しい食べ物、シャイだけど親切な人々、そういった思い出をこのビールとともにほんのりでも共有できれば幸いです。

企画者プロフィール
スエヒロ
東京都在住、食い意地の張った会社員。
旅先で食べること以外の目的を見出せないのが目下の悩み。

ブリュワーコメント
成瀬 史子
サクランボの甘酸っぱい味をベースに、シナモン、クローブ、アニスといったスパイスをきかせました。芳醇で爽やかな香味は、食後にまったりとデザート感覚で楽しみたいビールです。